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英日翻訳における「誤訳を招きやすい単語たち」 パート5 -「ignorance」と「override」の正しい意味と訳し分け

英日翻訳における「誤訳を招きやすい単語たち」 パート5 -「ignorance」と「override」の正しい意味と訳し分け

川村インターナショナルで社内翻訳者として勤務している筆者は、業務上、ほかの翻訳者の方の訳文をチェックする機会が多くあります。そして、いろいろな方の訳文に触れていると、誤訳しやすい単語やフレーズというものが見えてきます。実際の訳文でよく目にする誤訳を紹介して、誤訳を少しでもなくしていこう!という本ブログシリーズ。

今回は第5弾をお届けします。第1弾はこちら、第2弾はこちら、第3弾はこちらから、第4弾はこちらからどうぞ。

目次 [非表示]

ignorance

「無視する」や「知らないふりをする」という意味の動詞のignoreによく似たこちらの単語。ignoreの名詞形と思い込んで、うっかり「無視」と訳出してしまいそうになりますが……実は、ignoranceは「無知」や「無学」という、ignoreとはまったく違う意味を持つ単語なのです。

英英辞典を見てみると、それぞれ以下のように定義されています。

 

- ignore (verb): To deliberately not listen or pay attention to. To pretend to not notice someone or

something. (意図的に聞かない、注意を払わないこと。誰かや何かに気づかないふりをすること)

 

- ignorance (noun): The condition of being uninformed or uneducated; lack of knowledge or information.

 

知らされていない、または教育を受けていない状態。知識や情報の欠如)

 

このように、ignoreには「意図的に」というニュアンスが入っていますが、ignoranceは単純に「知らない」という状態を意味しています。

ignoranceで特に注意したいのは、ignoreとの意味の違いを理解していないと、致命的な誤訳につながる場合がある点です。例えば、下記のテキストの場合、ignoranceを「無視」と訳しても意味が通ってしまいます。

 

Her ignorance of the local laws caused trouble.


間違った訳:彼女は現地の法律を無視して問題を起こした。

 

正しい訳:彼女は現地の法律を知らなかったため問題が起きた。

 

「無視した」と「知らなかった」では、印象がかなり変わってきますよね。ignoranceは純粋に「知らなかった」だけで、意図的に「無視した」わけではありません。このように、「無視」と誤訳してしまうと大問題に発展しかねないケースがあるので、ignoranceは「知らない」「知識や情報がない」という意味であると覚えておきましょう。

 

override

プログラミングの文脈で見かけることが多いoverride。

 

・The subclass overrides the method in the parent class.

 

 サブクラスは親クラスのメソッドを上書きします。

 

・This function can be overridden using inheritance.

 

 この関数は継承を使って上書きできます。

 

上記のように、「上書き」という訳が定着していますが、実はoverrideに「上書き」という意味は存在しません

overrideは、

  • (決定などを)覆す

  • ○○より優先する

  • (命令などを)無視する、無効にする

  • 権限で押し切る

  • 自動制御を解除する

といった意味で、「上に乗って押しつぶして効力をなくす」というイメージです。「上書き」は、「既存のものに手を加えて更新すること」なので、overrideとは意味が異なります。

しかし、プログラミングの世界では「上書き」とするのが事実上定訳となっています。なぜ、「上書き」となったのか?実際に「上書き」を意味し、発音も似ているoverwriteと勘違いしたのかもしれませんし、プログラミングにおけるoverrideの動作が、日本語では「上書き」とすると分かりやすかったからかもしれません。とにかく、プログラミングの世界ではoverrideを「上書き」と訳すのは完全に定着していますし、公式ドキュメントや技術書でも当たり前のように使われています。それを「誤訳だ!」と指摘するのは野暮ってもの。

問題は、overrideを本来の意味で訳出しなければならない文脈で、「上書き」と訳出してしまうケースがあるということです。overrideを「上書き」と訳してはならない例文をいくつか見ていきましょう。

 

・The safety system cannot be overridden.

 

 安全システムは無効化(解除)できない。

 

・Company rules override individual department policies.

 

 会社の規則は、各部署の方針より優先される。

 

・The driver can override the autonomous driving system at any time.

 

 運転者はいつでも自動運転システムに手動介入できます。

 

・Executive management can override the committee’s decision.

 

 経営陣は委員会の決定を覆すことができる。

 

上記はいずれも「上書き」と訳すと意味が分からなくなってしまいますよね。特に自動運転や航空の分野など、自律システムの制御を人が直接引き取る文脈では「手動操作」「手動切替」「手動介入」といった訳が定着しているため、注意したいところです。

overrideは、プログラミングの文脈では「上書き」という訳が定着しているが、本来は「上書き」という意味ではない。プログラミング以外の分野では、文脈に応じて「覆す」「無効化する」「優先する」など、適切な訳を使うようにする。

ということを心にとめておくようにしましょう。

 

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