「やっほー!」も「おいっ!」も、どちらも「Hey」!? マンガ翻訳は物語の再構築
近年、海外でも人気を集めている日本のアニメやマンガ。昔は書籍でしか手に取れず、しかも日本語でしか読めなかった日本のマンガは、今ではウェブコミックや動画配信サービスを通じたアニメなどに形を変え、海外の方も身近に楽しめるようになりました。
日本語のマンガを別の言語に翻訳するにあたって、どのような難しさやおもしろさがあるか、日本のマンガを代表する『ドラえもん』を例に覗いていきましょう。
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マンガ翻訳は一語一句正確に訳す作業ではない
産業翻訳では情報一つ漏らさずに正確に訳すことが必須ですが、マンガ翻訳では俯瞰的にストーリーを理解し、それを別の言語で物語を再構築していく作業といえるでしょう。
日本の文化的背景を踏まえて成り立つ会話の温度感、キャラクターのちょっとした仕草や物語の世界観を別の言語で読者に伝えなければいけません。しかも文字数は限られていますし、一つ一つの場面に説明文を長々と追記するわけにもいきません。さらには日本語特有の擬音語、ダジャレに言葉遊び・・・

例えば、ドラえもんの有名な道具である「ほんやくこんにゃく」。「翻訳」というワードに、日本人だったら誰もが知っていて見たこともある「こんにゃく」で韻を踏んでいますが、これはどう訳しますか?この語呂の良さと言いやすさを別の言語でも残せたら、ドラえもんの道具の遊び心が伝わるのではないでしょうか。
このように、一語一句を直訳することはできないので、訳す作業にとりかかる前にマンガの雰囲気を十分に肌になじませてから取り掛かることが一番大切なステップと言えます。
日本語独特の擬音語、オノマトペはどうする?

① のび太くんがジャイアンから逃げているときの「タッタッタッ」という靴の音
② ドラえもんが道具を取り出して披露する「じゃーん!」という音
これらを英語にするとどうなるでしょうか?
これも考え込んでしまいますが、基本はイメージが伝わるように訳を付けることです。
例えば①の靴の音は 「tatata」でも伝わらなくもないのですが、伝えたいことは「急いで逃げている」ことなので、「scurry」や「 flee」と訳したほうがのび太くんの焦りが伝わるでしょう。
それでは②はどうでしょうか。
英語には「じゃーん!」に対応する「Tada!」という言葉があります。「Tada!」で間違いありません。それでは、「じゃーん!」という日本語が1話の中に何度か登場するとき、毎回「Tada!」では、少し味気がないですよね。
例えば、のび太くんがテストでいい点を取るためにドラえもんに借りた暗記パンをもって、それをしずかちゃんに「じゃーん!」と自慢げに見せるとき。「Tada!」でもいいのですが、「みてみて!」のニュアンスを含んだ「Look!」のほうが、のび太くんがしずかちゃんにめずらしいものを見せたい気持ちが伝わるのではないでしょうか。
同じ原文に対して、訳文が何通りあっても許されるのがマンガ翻訳の醍醐味とも言えます。
キャラクターの声を守る
ドラえもんはおっとりしている。のび太くんはオドオドしていて少し頼りないキャラ。ジャイアンは自己中心的で攻撃的でスネ夫はお金持ちの家の子で意地悪。原作者が綿密に作り上げた登場人物の色を翻訳のフェーズで崩してはいけません。
例えば、しずかちゃんは女性らしい話し方を作品の中でしていますが、綺麗な花を見かければ、「きれいな花!」ではなく、「あら、すてきなお花」と言いそうですよね。その上品な言葉遣いを残しながらこのセリフを英語に翻訳する場合、「Hey! A pretty flower!」ではしずかちゃんの雰囲気が十分に伝わりません。「Oh my, what a beautiful flower.」のほうがしずかちゃんの育ちの良さが伝わると思いませんか。
それでは、ジャイアンが空き地のステージでコンサートを開くとき、「みんなのために歌ってやるよ!最後まで聞いてけよ!」は英語でどのように訳しますか?
「Let me sing for all of you! Please stay till the end!」ではジャイアンの荒々しさは伝わりません。「Hey! I’ll sing for y’all! Don’t you dare leave in the middle of a song!」はどうでしょうか。スラングなどを使って、セリフを読むだけでもジャイアンだとわかるように訳します。
まとめ
これら以外にも、セリフは吹き出しの中に収まるように訳さないといけないことや、文化の壁をどう乗り越えるかなど、難しさや制限があるのがマンガ翻訳の奥深さです。ただし、一語一句訳せないことを逆手にとって、自由自在に言葉を織り合わせることができるのがマンガ翻訳の面白いところです。
『ドラえもん』のマンガは英語版がすでに出版されていますので、日本文化や日本語のダジャレがどのように訳されているか読んでみても面白いのではないでしょうか。今後、日本のマンガを多言語で読む機会があるときにはこれらを意識して読んでみることで、これまでとは違う視点でマンガが楽しめるかもしれません。
※本記事に登場するキャラクター名は説明目的で使用しており、各権利者に帰属します
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