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【医療翻訳に役立つ基礎知識】No.4 | 結核について (後編)

結核について (後編)

 

「白い疫病」などの著作で有名なRene Dubosによれば、結核が猛威をふるった19世紀、英国では、結核は勤労者の死因の30%を占め、1899年に至ってもフランス、パリでは結核が全死因の25%を占めた。英国の詩人John Keats、音楽家 Frederic Chopin、作家 Bronte 姉妹など、若くして結核で亡くなった芸術家や作家は多く、結核による、痩せて弱弱しい体つきや蒼白な容貌は美人の条件とされた。

英国のロマン派詩人George Gordon Byronは、このような「はかない美しさ」に憧れ、鏡に向かって、「I look pail. I should like to die of consumption, because ladies would say "how interesting he looks in dying."」と云った。余談ではあるが、この“interesting”をどう邦訳するかはむずかしい。

芸術や文学作品 で結核が深く関わった作品は多く、オペラの「ラ・ボエーム」と「椿姫」、文学作品ではE. Bronteの「嵐が丘」や堀 辰雄の「風立ちぬ」のヒロインはいずれも結核で亡くなっている。英国のRobert Stevensonも持病に結核があり、療養目的でカリブ海を航海した時に見聞したことをヒントに 「宝島」をダボスの療養所で書き上げた。

ストレプトマイシンやヒドラジッドなど、有効な抗結核剤がなかった19世紀から20世紀前半までは、空気がきれい な保養地での安静療養が唯一の治療法だった。モンテカルロ、モナコ、ダボス、アスペンなど、風光明媚で現在は観光地として有名な場所には、大きな結核療養 所があった。

しかし、このような場所で療養できたのは、恵まれたごく一部のひとで、たとえばアメリカでは、きれいな空気を求め、多くの結核罹患者が家族と も別れ単身で西部へ移住した。John Fordの西部劇「駅馬車」に出てくる賭博師や「OK牧場の決闘」のDoc Holidayは、一見して肺結核とわかる役どころである。

以下、前回の続きとして、結核感染と発病について述べる。

Ⅴ.結核感染(Tuberculous Infection)とは

 

結核感染は結核菌が体内(ほとんどが肺内への吸入)に入り、定着することをいう。

結核の場合、結核菌が付着した塵埃(Contaminated air-dust)を肺内に吸い込むことにより感染が起きる。結核感染経路は、経口感染や接触感染ではないので、ノロウイルスやO157などの病原性大腸菌の感染予防に必須の手洗いは、結核ではほとんど役立たない。同様の理由で、結核患者の食器、箸、衣服、寝具などを一般患者と別に扱う必要もない。

結核菌が最初に入る部位(初期病巣:Primary Lesion)は下葉(Lower lobe)、胸膜直下(Subpleural location )が多く、同部位で乾酪壊死巣(Caseous Necrosis)を形成する。乾酪性と呼ばれた理由は病巣断面が白っぽくチーズ様であることによる。


初期病変は自然治癒することが多いが、その後約10%で二次性結核として、結核を発病する(Development of Tuberculosis)。二次性結核の好発部位は肺尖(Apex)である。

 

結核感染と結核発病は区別して考える必要があるが、結核についての予備知識がないと感染=発病と勘違いし、混乱を招くことがある。
結核対策は、

 

感染予防(Prevention of Tuberculous Infection)

感染後の発病予防(Prevention of Development of Tuberculosis)

の二本柱から成る。

 

日本のように人口密度が高く、都市に人口が集中している国では、感染予防は実質的に不可能であるため、発病予防と早期治療(排菌陽性となる以前に治療を完了)に力を注いでいる。接触者検診でQFT(Quantiferon )陽性者(ツベルクリン反応陽転者と思ってよい)は潜在性結核(Latent Tuberculosis)とみなし、治療を開始することが多いが、その目的は発病予防である。

 

Ⅵ.結核発病(Development of Tuberculosis)

 

結核感染後、約10%が以下の過程を経て発病に至る。


結核感染 ⇒QFTもしくはツベルクリン反応の陽性化(陽転 Positive Conversion)⇒初期病変の形成⇒二次性結核病変の形成(肺尖部結核が多い)⇒空洞(Cavity)性病変の形成⇒排菌陽性化(感染源となる)
結核集団感染を防ぐには、排菌陽性化の前に治療を開始する必要がある。また、排菌陽性となる前の結核患者は、原則として結核病棟に隔離入院させる必要はない。

 

Ⅶ.結核についての最近の知見

 

1) QFT(Quantiferon  クオンテイフェロン)について

QFT検査は日本でも平成18年1月から健康保険で認可されている。ツベルクリン反応(以下ツ反)と異なり、QFTはBCG接種の影響を受けないので、ツ反よりも診断価値は高い。東京都では、ツ反に代えてQFT検査を接触者検診に採用し、潜在性結核の診断と予防的治療適応の決定に使用している。QFT検査が役立つ場合(適応)は、

 

  1. 接触者検診
  2. 臨床的に結核の疑いが高いが、抗酸菌検査が陰性の症例

 

であるが、ツ反と同様、結核感染後QFTが陽性となるまでには3週間はかかるので、接触直後と3週間後のQFT検査の比較が重要である。最初のQFTが陰性で3週間後が陽性の場合は、原則として、予防的治療の適応があると判断する。

2) XDR-TB(超多剤耐性結核)について

XDR-TBはExtensively Drug-Resistant Tuberculosis(TB) の略であり、その定義は、

  1. MDR-TB(多剤耐性結核菌=INH,RFPの両剤に完全耐性)のひとつである
  2. ニューキノロン剤に耐性(日本ではレボフロキサシン耐性)
  3. 注射剤(カプレオマイシン、カナマイシン、アミカシン)のいずれかひとつ以上にも耐性

の3条件を満たす人型結核菌とされている。

XDR-TBの最初の報告は、2005年初頭、南アフリカKuwaZulu Natal州で発生したエイズ合併の結核53症例で、うち52例が発見後16日以内に死亡した。53例中55%は結核既往のない初回発病例で、最初からXDR-TB感染例であった。XDR-TBの頻度は国によって異なり(米国 4%, 韓国15%, ラトヴィア19%)、WHOはMDR-TBの約10%と推定しているが、正確にはまだわかっていない。 

 

日本では、新規入院結核患者の約1.3%がMDR-TB、約0.4%がXDR-TB で、MDR-TB中XDR-TBは約29%と報告されている。


南アフリカKuwaZulu Natal州で発生したXDR-TBの集団発生は、1ヶ月以内に53例全例死亡したが、いずれもHIV合併例であった。しかし、HIV非合併XDR-TBでは60%程度は治療達成可能とされている。

 

MDR-TBと同様、XDR-TBにもいろいろあり、日本で見られるようなエイズ非合併XDR-TBは、経過は慢性的で、治癒も約60%は可能であり、必ずしも予後不良ではない。しかし、海外から感染性が高いXDR-TBが将来、日本に持ち込まれる可能性は常に存在し、今後も慎重な対応が必要である。

毛利昌史

毛利昌史

東和病院名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。米国ミネソタ大学留学(フルブライト留学生)ミネアポリス市Mount Sinai Hospital勤務。帰国後、東京大学第二内科助手、東京大学医学部附属病院中央検査部講師、三井記念病院呼吸器センター内科部長などを歴任し、平成15年に国立病院機構 東京病院名誉院長に就任。その後化学療法研究所付属病院院長、東和病院院長を経て現在は東和病院名誉院長。

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