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【対談】機械翻訳活用時に必要な視点⑤機械翻訳との付き合い方

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次 

  1. 機械翻訳でできることとできないこと
  2. 機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要
  3. 顧客のニーズの重要性
  4. 誰がやるべきか
  5. 機械翻訳との付き合い方
  6. 機械による支援が正しい形

機械翻訳との付き合い方

森口:
翻訳会社が一番活用するのは、ISO17100 でしょうか。しかしISO17100は、プロセスの標準であって同一のプロセスで実施されていても、お客さんと仕様を詰められた会社の方がお客さんの要求品質により近づける。


新田:
そうです。そのオッケーの品質はお客さんがオッケーといったのがオッケーなんです。​​​​​​​


森口:
もちろん機械翻訳の質によるという人もいますし、ツールにもよるという人もいると思いますが、それを速く処理できる人とそうではない人がいます。では、速く処理できる人というのは、その分野で長年翻訳をやっていて、自分が持っている知識である程度のことを拾えるスキルのある人だということですかね。


新田:
はい。経験とかですね。やはり私も専門分野ではない法務分野や医薬分野であればそんなに短時間で修正できません。正確にしようとすると相当な調べものが必要になります。「60点くらいでいいから」と言われてもその60点がどのくらいなのかわからないですし。

実際に英日の法務翻訳のプリエディットを研究開発として試したことがあるのですが、専門用語が正しく訳されているかどうかなんて正直わからなかったのです。

正しい訳を知らないがゆえに誤訳箇所を見つけられなくて短時間で修正が完了しました、なんていうのはちょっと変ですよね。短時間で正しく修正するには分野についての知識は必要ですし、おそらく分野それぞれの修正のコツみたいなものはあるんでしょうね。

森口:
例えば契約書など特殊な書式の文書に機械翻訳の出力を近づけるには、MT側で教師データを限定してカスタマイズをすることで調整できる可能性はあると思います。


新田:
MT側で、そうですね。ですからどのエンジンを使うかというのももちろん考えるべきです。


森口:
いまは分野を分けてMTを作るケースが増えてきていますが、そこにつながっているのかもしれませんね。やはり本当の意味で速くなるためには、機械翻訳ができる限り活用するという前提条件がまず必要ですね。

何かが抜け落ちているのだけれど、むしろ別の何かについては機械翻訳の出しているものを信用できるという。その「何か」というのが、例えば冠詞だったり、用語だったり。

新田:
信じていいのであればですね。調べものがなくなったとか、法律名や医薬品名など正しい言葉を出してくれたり、用語集を自分で登録して確実に適用できたりすれば、調べものが減るという意味で速くなると思います。

ちなみに、文脈に依存していない、ある言葉とか、何かの列挙とか、そういうものがあるときには意外と機械翻訳でできてしまいます。特許翻訳の中でも、「図面の簡単な説明」という項目のように「図1は××図である」とかが列挙されているところはほぼ機械翻訳でいけてしまうこともあります。

ですから、「機械翻訳は使えない」と否定はしません。使えるところはあります。どの翻訳エンジンを使うかとか、どういう使い方をするかが重要です。

森口:
使えるところは使おうと。


新田:
そうです、使えばいいと思います。それが、「この分野であればどんな文章でも使える」とかそういう誤解はよくないですね。難解な文章にはそれを読み解く時間も言葉を補って訳すことが必要です。そのうえでの単価の設定も必要なんです。

機械翻訳を修正したからという理由だけで、翻訳者が手入力で対応すべきところも含めてコストダウンになってしまうとすごく反発を覚えます。それは私だけではなく、翻訳をやっている人であればそうだと思います。

翻訳をするときは、文書に書いてある情報だけではなく、その業界の背景知識であったり、慣習であったり、競合との関係であったり、文化背景的にこの言葉はおかしいなど、いろいろな判断をしながら翻訳者は表現を考えていると思います。もちろん、読みやすさを考慮して言い回しを考えたりしています。そういうものがごっそり抜けた翻訳に違和感、気持ち悪さを感じます。

ですから「調べなくていいよ」と言われても、気になってなんとなく調べてしまうと思うので、そこの割り切り感が必要だと思います。そういわれても気持ち悪くてついつい調べちゃって、結局時間がかかってしまってとか、ということもあるでしょう。

なので、自分が割り切れるのなら使えばいいし、それで気持ちよくやっていけるのであれば使えばいいと思います。もちろん、自分が一から翻訳した場合とは違いますから、その品質を求められたときにはこれだけ報酬が必要ということになります。

でも、お客のニーズによって「こういう案件もある」と割り切ってポストエディットも通常の翻訳も両方やってもいいわけですよね。選択ができる状態であればいいと思います。強要されてしまって、これをやらないと別の案件をあげないよみたいにバーターみたいになってしまい追い込まれる形だと翻訳者は疲れてしまうと思います。

⑥に続く

【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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