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【対談】機械翻訳活用時に必要な視点④誰がやるべきか

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次

  1. 機械翻訳でできることとできないこと
  2. 機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要
  3. 顧客のニーズの重要性
  4. 誰がやるべきか
  5. 機械翻訳との付き合い方
  6. 機械による支援が正しい形

誰がやるべきか

森口:
ポストエディットを誰がやるかという議論が少し前にあったのですが。新田さんのご意見はいかがでしょうか。


新田:
翻訳者ですね。対象分野に精通した翻訳者が担わないと内容の理解に時間がかかってしまうし、機械翻訳が出力した訳文の間違いをとらえきれないし、正しい訳語を選べないと思います。なので、分野や用途によるとは思うのですが、「ポストエディットという作業は、翻訳者の経験がない人でもできるので安く仕上がります」という考え方で進んでしまうと危険な気がします。

だとすれば、その最終責任を持つ翻訳者がやればいいと思っています。

森口:
NMTは流暢さがかなり向上したので、一瞬読むとすごくスムーズに読めるけれども、誤訳や訳抜けがあったりして、正確性が落ちていますという話にもなっています。また、現状の商用化されている技術では一文単位に機械翻訳処理がされるため、文書の背景にある情報や、文を超えた語彙的な結束性、文法的結束性も含めて人が判断してあげないと正しい訳文にできません。

新田さんが以前おっしゃっていましたが、翻訳をする際にインターネットで検索して、裏付けする業務も、プロの翻訳者は当たり前のこととして行っていると思います。いずれにせよ、ポストエディットは、機械翻訳が正確かどうかを確認する作業みたいな感じにいまは変質していますよね。

新田:
そう考えると誰がいいか。


森口:
誰ができるのかな。


新田:
機械翻訳の出力結果の誤訳については、その専門分野を知っている人でなければ正確に修正できないということもあり得るので、やはり専門性を持った人が修正したほうがいいと思います。


森口:
むしろ英語的な知識もあって、専門分野もあってというプロの翻訳者さんはそういういろいろなことを考えてやられていますよね。しかし、ひょっとしたら英語的能力が落ちるかもしれない、だけれどもその専門分野の知識はあるから、「おかしい」ということには気づけるということですね。


新田:
そうです。そのおかしさ加減も、技術者ならとか、この分野の弁護士さんなら、このぐらいの訳語の揺れ幅ならわかるよねという度合いもわかると思います。その判断ができると修正はすごく速くて正確になると思います。

「この訳語なら誤解されないから、もっと自然な別の表現にわざわざ書き換えなくてもいい」と判断できるからです。これは、100点の訳語と、意味を伝えうる60点の訳語との両方を知っている人でないと言えないことだと思います。

以前、英日翻訳で、海外の芸能や政治の話題を含むニュース記事の全文が機械翻訳されたものをポストエディットをするという研究に、あるプロジェクトの一環として取り組んだことがあります。

訳文はすでにExcelファイルに入力されていて…。ということで、そもそもWordじゃないところからして苦手でした(笑)。第三者に訳文を評価されるプロジェクトだったので、気合をいれて取り組みました。

その際に痛感したのは、慣れない分野、知らない分野では機械翻訳の訳文の正しさも間違いも判定できない、ということなのです。このときには「最小限の修正」ということで時間制限を設けて作業をしたわけですが、冷や汗をかきながらでしたね。

芸能ネタはたまたま知っている歌手の話だったので比較的簡単に修正できたのですが、ニュースで使う言葉をすぐには選べなくて誤訳として修正すべきかどうかの判断に時間がかかりました。中東の政治記事は正直ひどかったです。国の指導者の名前も知らないし正確な表記もわからないし国と国との歴史的背景もわかりません。そうすると記事の内容が皮肉なのか批判なのか事実を伝えているだけかも全く判断がつかないのです。​​​​​​​

このレベルの理解度で、機械翻訳の「なんとなく読めてしまう訳文」を修正するというのは至難の業でした。こうなると修正のための調べ物に時間がかかりすぎてしまい、制限時間内で満足のいく修正ができませんでした。​​​​​​​

もし「専門用語の調べものはやらなくていいですよ」と言われたら、専門用語についてはソースクライアントが判断や修正できるいう前提ですすめるわけだと思うのですが、重大な誤訳があったとしても専門知識がないとスルーしてしまいかねません。これは恐いなと思いました。

なので、正しく直すためにはやはり専門性が重要なんだと当たり前のことを再認識したんです。翻訳だったら通常は自分の専門分野外の分野は請けませんよね。調べものが多すぎて大変ですから。

ポストエディットも、専門知識に基づいて不自然な訳語をすぐに修正し、原文が間違っている場合には指摘できたほうが速いし、お客様にとってもよいことなのではないかと思います。

森口:
でも、それは従来の翻訳とはちょっと違うアプローチになりますよね。


新田:
かもしれません。いや、もちろん原文も読むわけですから翻訳といえば翻訳じゃないでしょうか。ただ、チェッカーに近い作業かもしれませんね。今までの翻訳とは違うことは確かです。


森口:

でも、それを「ポストエディット」と定義するというのも1つのやり方かもしれませんが、いまは必ずしもそうはなっていません。

新田:
正確さも担保するならば翻訳者がやったほうが確実だなと。いま「翻訳者」と言ったときには、だいたい専門分野があってという頭の中にあるのでそうなってしまいます。


森口:
ところが、ポストエディットも翻訳も統一した品質基準が定義されているわけではないのが実情です


新田:
たしかにそうです。


⑤に続く

【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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