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【対談】機械翻訳活用時に必要な視点③顧客のニーズの重要性

人手の翻訳でできることと機械にできることの違いをよく理解し、分野や用途に応じて柔軟に機械を活用することが望ましいが、その判断のポイントについて、エヌ・アイ・ティー株式会社の代表取締役社長、新田順也さんと意見交換をさせていただいた。


目次

  1. 機械翻訳でできることとできないこと

  2. 機械翻訳の利用には柔軟な選択肢が必要

  3. 顧客のニーズの重要性

  4. 誰がやるべきか

  5. 機械翻訳との付き合い方

  6. 機械による支援が正しい形


顧客のニーズの重要性

新田:
もう1つは、ソースクライアントのニーズが翻訳者にはわかりづらい、または伝わっていないケースが多いかもしれません。ニーズが見えなければ、顧客不在で機械翻訳が議論されしまうこともあるかもしれません。
翻訳者が職人としての自分が想定する品質こそが正解だと思って翻訳をしても、ソースクライアントはそこまでは必要ないということがあるわけです。

私が担当した案件を少し紹介をしましょうか。外資系のコンサルティング会社から英日翻訳を受けたことがあります。このコンサルティング会社のクライアントがプレゼンの内容を知りたいからちょっと訳してくださいということでした。この会社は、通常の翻訳にくらべ格安で対応することを希望していたんです。グーグル翻訳で処理したパワーポイントのファイルを渡されました。

あまりにも安いので逆に何が起こっているのか興味をもちまして(笑)、まずはコストと品質の相談をしました。話をしてわかったのは、この翻訳の目的は、この会社のクライアントが「一度聞いたプレゼンの内容を確認するため」ということだったのです。

なので、「御社名とクライアント名が誤訳になっているのでそれは直します」とか、「数字や提案の内容はちゃんと直しますけど、業界の動向説明部分はクライアントが知っているからグーグル翻訳の誤訳のママ残します」とか、「いちばん最後のスタッフ紹介のスタッフの趣味は重要ではないと思うのでグーグル翻訳のまま使いますよ(笑)」とか、そういう話をして、100スライドぐらいあったものを大幅に削減しました。

このように固有名詞や会社名だけは修正するとか、数字、提案内容、スケジュールが間違いなく伝わるようにするという仕様にして、翻訳対象のスライドも限定することで合意をしたのです。この条件で時間単価でこの仕事を引き受けて、このコンサルティング会社は私の納品物をとても喜んでくれたんです。

私は、なるほど現場ってそうだよね、重要なところの価値判断のために使う書類であって、きれいに保管して見直してくれという話ではないんだなとか、次のアクションに行くための判断材料の1つでしかないものにかけられる費用は知れているなあと気が付いて、それがよい経験になりました。

森口:
プレゼンテーションから何か情報を得たいというのが便益ですね。それを得るための翻訳であれば、1からわざわざやる必要もないというか、実はパワーポイントを読んで、「こういう内容が書いてありますよ」と1枚のスライドにまとめてあげたほうがいいのかもしれませんね。


新田:
そうです。それもあり得るんです。ほかにも、外国の企業とのメールのやり取りお手伝いをしたことがあって、相手のメールを機械翻訳した後に、私が要約して、「次のアクションはこれだけ求めているので、これを回答してくだい」と納品したことがあります。

もともとは全文の翻訳を依頼されたのですが、このお客様の予算にあわせるために内容の要約だけにすることを提案したのです。ところが、要約をするのはけっこう手間だったんです。このメールはもめごとの対応でして、千何百ワードと長くて、要約すると相手の感情面でのニュアンスが抜け落ちてしまって恐いなと思ったんですね。そこで、機械翻訳を軽く修正して、そして要約も入れるということをしました。

翻訳者である私がソースクライアントと直接お話をしているからやり得る提案でしたが、通常は、翻訳者とソースクライアントには距離があって、間には翻訳会社がいるわけですよね。そうすると、翻訳者と翻訳会社とのコミュニケーションの中で今話したようなものと同じようなレベルの合意を取るためには努力というか仕組みが必要ですよね。​​​​​​​

森口:
また、翻訳会社側が、この文書はポストエディットに適していないということをはっきりと言えるかどうかも重要ですね。お客様側でも、ポストエディットの作業を委託する中で一緒にサービスレベルを明確にする努力を惜しまない方たちもいます。そういう協力がなければ、外部向けの文書に適用していくのはリスクが高いと思います。

外部に公開する文書、たとえば使用説明などは翻訳が原因で、ユーザーが誤った使い方をしたらまずいですよね。ほかにもプレスリリースなどは企業のブランドイメージにも影響を与えます。そういう文書は、プロの翻訳者の方が翻訳をしたものを、翻訳会社側で独自の品質管理体制でチェックをするという、従来のやり方が継続的に採用されているケースがほとんどです。少なくとも当社においては、その部分は何も変わっていません。

森口:
お客様が要求仕様を固める協力をしてくれることはとても重要ですね。我々の業界でも人と機械の翻訳の精度の違いについて議論をするケースが増えていますが、その議論はあくまで精度の違いであって品質の議論ではないですよね。

脇道に逸れますが、「品質」の定義はJIS Z 8101:1981(品質管理用語)では、「品物またはサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」と定義していましたし、ISO9000:2005では「品質」は「本来備わっている特性の集まりが要求事項を見たす程度。」とされています。

何が言いたいかというと、いずれも共通していることは、顧客の要求事項やエンドユーザーのニーズに合っているかを決める特性(仕様)があるということですよね。つまり、顧客が本当にやりたいこと、市場にどんなニーズがあるのかを深堀しなくてはいけない。それは今新田さんが具体例を交えて話されていました。

その仕様を聞き出さなければ当然品質も理解できないし、理解できないものは管理できない、今のポストエディットは、その点が混在している状況なのかなと感じています。

そこで、お客様や市場のニーズに向き合ってみると、「もっと翻訳したい情報がある」「もっとタイムリーに知りたい情報がある」というニーズが見えてきたりします。できる限り多くの情報を限られた予算で翻訳するために活用されるのが機械翻訳だったり、ポストエディットだったりすると思います。

新田:
そうすると、御社でもその個別のニーズにあわせて対応されているということですよね。なにか工夫をされていることはあるんでしょうか。


森口:
我々が受託してきたポストエディットの品質定義も、こういうところは修正しませんとか、ここまでやりますというある程度のガイドラインをこちらで作っていますが、結局のところはお客様と調整していかなければいけません。お客様によっては、しっかりとスタイルなどを見てほしいというオプションを要望されるケースもあります。要するにどの案件も要求仕様はバラバラです。

実際の案件の一部をポストエディットで処理したものをサンプルとして見てもらって、「このレベルのものが出ますけれどもいいですか」と確認をします。やっておいて、そして「あれ、期待と違ったな」という場合は「じゃあ通常の翻訳でやりましょう」というやり取りを毎回必ずやっています。


④に続く

【インタビュアー】森口功造

【インタビュアー】森口功造

株式会社川村インターナショナル代表取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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