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【医療翻訳に役立つ基礎知識】No.1 | 呼吸器の仕組み(前編)

呼吸器(Respiratory organs)

よい翻訳をするためには、
1.原文の正しい理解
2.正しい、わかりやすい日本語への変換
の ふたつが必要である。前者は語学力(通常は英語の読解力)、後者は国語力にそれぞれ対応する。しかし、医療関連文書の翻訳には、語学力と国語力に加えて、 医学についての基本的知識も必要となる。ここでは、翻訳に必要な医学的知識について、最初に呼吸器を中心に、要点を解説する。

 

呼吸器の構造と生理

呼吸器は気道(Respiratory tract)と肺(Lung)から成り、気道は上気道(Upper Respiratory Tract)と下気道(Lower Respiratory Tract)に分ける。鼻、咽頭(Pharynx)、喉頭(Larynx)は上気道、気管(Trachea)、気管支(Bronchus)、細気管支(Bronchiole)は下気道である。
 

気管は第5胸椎のレベルで左右主気管支(Right and Left Main Bronchus)に分岐し、約23回分岐を繰り返して肺胞(Alveolus)に到達する。

肺は左右肺から成り、左肺には上葉と下葉、右肺には上葉、中葉、下葉がある。
気道は(Airway)は、鼻(もしくは口)と肺胞間を結ぶ通路であり、ガス交換は肺胞毛細血管内の血液と肺胞気(Alveolar gas)の間で行なわれている。

呼吸とは

呼吸の目的は、ガス交換 [Gas Exchange:酸素の取り込み(Oxygen uptake)と炭酸ガスの排出(Elimination of Carbon Dioxide)]にあり、呼吸停止は心停止と同様、死を意味する。

呼吸は、吸気(Inspiration)と呼気(Expiration)の繰り返しで、人は生まれてから死ぬまで、休むことなく呼吸を続けている。しかし、健康な人が日常生活で呼吸を意識することはない。

心疾患や肺疾患でほぼ必発の呼吸困難(dyspnea, shortness of breath)は、「呼吸を意識する状態」であり、健常者が「息が苦しい」と感じる(=呼吸を意識する)のは、走ったり、階段を駆け上がったりしたときなどに限られる。

酸素運搬(Oxygen Transport):血色素(Hemoglobin)の役割

血液が赤いのは赤血球内の血色素(鉄を含む)による。血液(Blood)は血球成分(赤血球、白血球、リンパ球、血小板)と血漿成分(Plasma)から成るが、血液100ml中の血漿成分に溶ける酸素は0.3ml程度に過ぎない。

しかし、血液100ml中の血色素と結合、酸化ヘモグロビン(Oxyhemoglobin))として運ばれる酸素は18.8mlで血漿中に溶解した酸素の約60倍にもなる(血色素14g/100mlと仮定)。

貧血(赤血球もしくは血色素の低下)があると、血液の酸素運搬能力が低下するため、組織への酸素補給を維持するためには、心臓はより多くの血液を拍出する必要が生じる(質を量で補うと考えればわかりやすい)。

この結果、心拍出量(Cardiac output)が増加するが、その大部分は心拍数の増加によるところが多い。貧血(Anemia)の症例で頻脈(Tachycardia)、動悸(Palpitation)、息切れ(SOB: shortness of breath)の訴えが多いのは、このような理由による。

血色素は主に骨髄(Bone Marrow)で作られ、鉄(Iron)を必要とする(血液が赤い理由)。若い女性は鉄不足になり易く、生理出血による鉄欠乏性貧血(Iron Deficiency Anemia)は、もっともよく見られる貧血である。

炭酸ガスの排出(Elimination of Carbon Dioxide)

体内組織で産生された炭酸ガスは静脈血中に入り、右心房、右心室、肺動脈を経て、肺胞毛細血管に至り、肺胞気中に拡散、呼気として体外に排出される。

炭酸ガス排出は、換気に全面的に依存し、肺胞低換気(Alveolar Hypoventilation)により炭酸ガスは体内に蓄積し、動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)は上昇する。

逆に、過換気(Hyperventilation)により炭酸ガスは体外に排出されPaCO2は低下する。

PaCO2の上昇(Hypercapnea)は慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD:肺気腫、慢性気管支炎など) による呼吸不全(Respiratory Failure)の特徴的所見であり、呼吸性アシドーシス(Respiratory Acidosis)の原因となる。

過換気によるPaCO2 の低下は、精神的に不安定な若い女性でしばしば見られる所見で、呼吸性アルカローシス(Respiratory Alkalosis)の原因となる。てんかん(Epilepsy)が基礎にある症例では、過換気によりてんかん発作が誘発されることもある。

主な呼吸器疾患:訴えと臨床症状などについては次回に述べます。

毛利昌史

毛利昌史

東和病院名誉院長。東京大学医学部医学科卒業。米国ミネソタ大学留学(フルブライト留学生)ミネアポリス市Mount Sinai Hospital勤務。帰国後、東京大学第二内科助手、東京大学医学部附属病院中央検査部講師、三井記念病院呼吸器センター内科部長などを歴任し、平成15年に国立病院機構 東京病院名誉院長に就任。その後化学療法研究所付属病院院長、東和病院院長を経て現在は東和病院名誉院長。

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