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「なぜか読みにくい」訳文の正体⑨To-Doをスリムに

「なぜか読みにくい」訳文の正体⑨To-Doをスリムに

翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。意味が間違っているわけではないし、訳し漏れもないし、専門用語も正しく使われている。それなのに、読みにくい!表現が不自然!こなれていない!
このような訳文は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。どうすれば自然な日本語になるのでしょうか。本連載では、「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。


(前回までの記事:①遠距離でのすれ違い②命なきモノ③要なき主④アレがコレでソレだから⑤整理下手は翻訳下手⑥言葉の呉越同舟⑦訳語のドレスコード⑧“For” of Nature

目次[非表示]

  1. 1.冗長な文
  2. 2.短くするには
  3. 3.動詞→名詞 + α
  4. 4.まとめ
  5. 5.川村インターナショナルの翻訳サービス


冗長な文

頭にスッと入ってこない文の特徴の1つに、「ムダに長い」ことが挙げられます。といっても、単純に文字数が多いという話ではありません。文の構造的な問題です。そのため、「1文の長さは20文字程度を目安とする」といったルールを設けたとしても、問題が解決するとは限りません。
ムダに長い文の原因はいろいろと考えられますが、今回はその1つを解き明かしていきたいと思います。



短くするには

まずはこちらの例文から。

原文

But AI being abused to power cyber threats isn't a just a future problem for the interne

訳文

しかし、サイバー脅威を拡大させるためにAIが悪用されることは、インターネットの未来だけの問題ではない。


なんとなく意味はわかりますが、「ん?」となってしまいます。「~させるために~されることは」の部分が引っかかりますね。さて、今回注目したいのは、原文で青字にした箇所です。
 
中学校で習った「to不定詞」を覚えているでしょうか?日常的に英文に触れていて、意味を理解している人でも、学校で教わった文法の名前は忘れているかもしれません。筆者である私がそうです。少し中学時代に戻って、文法を復習してみます。

to不定詞は「to + 動詞の原形」でしたね。これには3つの用法がありました。
 
名詞的用法:~すること
形容詞的用法:~するための

副詞的用法:~するために


例文では、「to power」を副詞的用法として、「拡大させるために」と訳しています。そして「AIが悪用されること」と続きます。英語の構造に忠実な訳と見ることもできるかもしれませんが、冗長な印象を受けてしまいます。

なぜでしょうか?英語の動詞を動詞のまま訳して、「~させるために~されること」という形にするから、くどい感じになってしまうのではないでしょうか?日本語でこの部分を名詞の形にしてみると・・・

しかし、AIの悪用によるサイバー脅威の拡大は、インターネットの未来だけの問題ではない。

短くすっきりした文になりました。

悪用、拡大と名詞の形にしたほか、「拡大させるために」という目的を説明する表現から「拡大(すること)は」という結果を示す表現に変えています。




動詞→名詞 + α

別の例も見てみましょう。
 
原文

With the rise of remote work, the talent pool is now global and businesses need to tap into it to survive and thrive.


訳文

リモートワークの拡大により、現在では、人材プールが世界規模になっている。今後も存続して繁栄したい企業は、その人材プールを活用する必要がある。


動詞が2つありますが、これもto不定詞ですね。訳文はなぜか「~したい」という表現になっていて、係り先が「企業」です。形容詞的用法と解釈したのでしょうか。直訳するなら、副詞的用法で「存続して繁栄するために」となりそうです。

どんな企業も「存続して繫栄したい」と望んでいるはずですし、原文にないニュアンスが出てしまっているので、別の表現に変えたいところ。

リモートワークの拡大により、タレントプールが世界規模になった。企業はこれを生き残りと成長のために活用する必要がある。


今回も英語では動詞の部分を日本語では名詞にして、文を短くしました。

ちなみに、スリム化のポイントは他にもあります。

原文の「now」を意識してか、元の訳文は「現在では~になっている」という表現を選んでいます。しかし、「~になった」だけでも、「今はもうこういう状態だ」というニュアンスは出ているはずです。

また、原文の「talent pool」は1回だけで、文の後半では「it」になっていますが、最初の訳には「人材プール」が2回出てきます。「今後も存続して繫栄したい」を挟んで、1回目の位置と離れてしまったために、もう一度訳出して意味を明確にしたいと考えたのかもしれません。英語と同じように、to不定詞の部分を後ろに持ってくれば、代名詞(これ)にしても意味は通じます。この「距離感」の問題については、当連載の第1回の記事をご参照ください。

  「なぜか読みにくい」訳文の正体①遠距離でのすれ違い 翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。この新連載では、英文和訳における「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。 今回は、「主語と述語の距離」「安易な訳語の選択」に注目して、和訳をブラッシュアップする方法を模索します。 翻訳会社川村インターナショナル



まとめ

今回はto不定詞の動詞の部分を名詞の形にすることで、冗長な文を短くすっきりさせる方法を紹介しました。

もちろん、「~すること」「~するために」などの形でも自然な文はありますし、ただ短く削ればいいというわけではありません。でも、「何かくどくどした文だな。簡潔にできないかな」と思ったときは、名詞で表現できそうな動詞がないか探してみてください。

逆に、英語では名詞が並んでいる部分を、日本語では動詞に変えることで読みやすくなるケースもあります。これについては、また別の記事で例文を交えて取り上げたいと思います。


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