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「なぜか読みにくい」訳文の正体⑦訳語のドレスコード

翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。意味が間違っているわけではないし、訳し漏れもないし、専門用語も正しく使われている。それなのに、読みにくい!表現が不自然!こなれていない!

このような訳文は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。どうすれば自然な日本語になるのでしょうか。本連載では、「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。


(前回までの記事:①遠距離でのすれ違い②命なきモノ③要なき主④アレがコレでソレだから⑤整理下手は翻訳下手⑥言葉の呉越同舟

目次[非表示]

  1. 1.ラフ過ぎず
  2. 2.飾り過ぎず
  3. 3.自然体で
  4. 4.川村インターナショナルの翻訳サービス

今日は親友の結婚式!披露宴の会場は5つ星ホテル。新郎の会社の偉い人もお見えになるとか。さて何を着ていこうかな・・・というときに、部屋着のスウェットやTシャツを着ていく人はまずいないでしょう。翻訳においても、場を意識せずに使った言葉は「浮いた」存在になってしまいます。

今回取り上げるのは「場違いな」訳文です。「読みにくい」というよりは「不自然」な表現ですね。

ラフ過ぎず

では1つめの例文を見てみましょう。アマゾンのバーチャルアシスタント「Alexa」を特集したコラム記事の一文です。


Alexaの成長のおこぼれにあずかる方法を考えている独立系開発者も、Alexa for Businessで自社専用のAlexaスキルを開発しているビジネスパーソンも、使っているのはAlexa Skills Kitだ。

筆者が気になったのは「おこぼれにあずかる」という部分でした。確かに、Alexaの成長を好機と捉えている開発者はいるでしょう。そこから自分も利益を得ようとしているわけですから、「おこぼれにあずかる」という訳語が間違いとは言えないかもしれません。

しかし、「おこぼれ」には「他人の残り物」といったニュアンスもありますし、自分で謙遜して使うような場合もあるので、この文脈に合わないばかりか、開発者に対して失礼に当たる可能性も・・・。もう少し上品な表現はないものでしょうか。



Alexaの成長に便乗する方法を考えている独立系開発者も、Alexa for Businessで自社専用のAlexaスキルを開発しているビジネスパーソンも、使っているのはAlexa Skills Kitだ。

「機会を捉えて利用する」という大筋のニュアンスから、「便乗する」という言葉を選んでみました。これでネガティブなイメージが少し抑えられて、文脈に即した表現に近づいた気がします。

飾り過ぎず

先ほどはフォーマルな場にカジュアル過ぎる服装で訪れるような例でしたが、次はその逆のパターンについて考えます。言うなれば、ドレスやタキシードを着てスポーツジムで汗を流すというケースでしょうか。誰かを不快な気持ちにさせることはないかもしれませんが、その場において異質な存在と見られることは間違いないでしょう。

しかし、収支を合わせたり、航空券を予約したりするのは最高の時間の使い方だ、と主張するのは困難である。

こちらは、小さな企業が実際より規模を大きく見せるためのヒントを紹介する記事に出てくる文です。そこまでカジュアルな記事ではないので、「結婚式の正装でエクササイズ」というほど極端な例ではありませんが、「主張する」や「困難である」といった言葉が、文の前半の内容と比べてちょっと大げさな感じがします。

文自体のリズムも良くないので、それも変えてみましょう。


だが、小切手の処理や航空券の予約より、もっと有効な時間の使い方があるはずだ。

「小切手の処理や飛行機の予約が一番良い時間の使い方とは思えない」ということを伝えたい文なので、堅苦しさを感じさせる「主張」「困難」という言葉を使わずに、それを表現してみました。「~が最高の時間の使い方ではないだろう」のような訳でもいいかもしれませんね。上の変更後の訳で「あるはず」という言葉を使ったように、断定を避ける表現は入れておきたいところです。

また、文末の「である」も中小企業向けのTips記事にしては何だか格式ばった印象を受けるので、「だ」にしています。

自然体で

今回の例はいずれも、「間違いではないけれど文脈を考えると何か変」というものでした。翻訳では文脈を意識することがとても大切だと思います。英和辞典に載っているからといって、何も考えずに訳語を選ぶと、「場違い」な文ができあがってしまうかもしれません。

原文をしっかり読んで、書き手が言わんとすることを理解するのはもちろんとして、英和辞典の訳がしっくりこなければ、その訳語を今度は国語辞典で調べたり、類語辞典でニュアンスの似た言葉を探したりすると、文脈に合った表現が見つかることがあります。

本連載は、読みにくい訳文の正体を突き止めて、「自然」な表現に近づけることをテーマとしています。「自然な表現」が、必ずしも「高尚な文学作品で使われるような表現」とは限りません。今回の2例目のように、場面によってはフォーマルな言葉が「不自然」になることもあります。

ちなみに本連載は、カジュアル過ぎず、フォーマル過ぎず、でもやっぱり少しカジュアルに寄せて、親しみやすさを感じていただけるようなトーンを目指しています。

それでは、また次回の連載記事でお会いしましょう。


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