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For of Nature

「なぜか読みにくい」訳文の正体⑧“For” of Nature

翻訳された日本語が、どこか読みにくいと感じたことはないでしょうか。意味が間違っているわけではないし、訳し漏れもないし、専門用語も正しく使われている。それなのに、読みにくい!表現が不自然!こなれていない!

このような訳文は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。どうすれば自然な日本語になるのでしょうか。本連載では、「なぜか読みにくい」訳文の正体を突き止めるとともに、不自然さを解消する手段を考えていきます。


(前回までの記事:①遠距離でのすれ違い②命なきモノ③要なき主④アレがコレでソレだから⑤整理下手は翻訳下手⑥言葉の呉越同舟⑦訳語のドレスコード

目次[非表示]

  1. 1.違和感の山
  2. 2.For example
  3. 3.For good
  4. 4.川村インターナショナルの翻訳サービス

違和感の山

「なぜ山に登るのか?」 「そこに山があるから」 

誰もが聞いたことのあるやりとりですね。この哲学的な答えを返したのは、エベレスト制覇を目指したイギリスの登山家、ジョージ・マロリーとされていますが、彼のこの言葉を「山」と訳すのは間違いという指摘があります。この会話は山全般のことではなく、エベレストに限った話だったそうです。 

「山」か「エベレスト」かはさておき、問いの方に注目してみましょう。「なぜ山に登るのか?」とはつまり、「山に登る理由」を聞いているわけですね。これを言い換えるなら、「登山の理由」という表現もできると思います。でも、「登山に対する理由」という言い方はどうでしょうか?不自然な感じがしてなりません。 

英語から日本語への翻訳で、「for」という単語にやたら「~に対する」「~に対して」という訳を当てている例を見かけることがあります。些細なことにも思えますが、このような小さな「ズレ」が積もって山のような違和感が生まれるのです。 

参照:ジョージ・マロリー, ウィキペディア

For example

こちらの例をご覧ください。

In CAR T cell– and other T cell–mediated therapies, one of the big reasons for variability is the use of a patient’s own cells. 
CAR T 細胞、およびその他の T 細胞を介した治療法において、変動に対する大きな理由の 1 つは、患者自身の細胞を使用することがあげられます。 

今回のテーマ、すなわち「for」と「対する」以外にも気になる点がありますので、先にそれを見ていきましょう。「理由の1つは~することがあげられます」では、主部と述部がちゃんと対応していません。「理由の1つは~することです」や、「理由の1つとして~があげられます」といった表現に変える必要があります。 

「変動に対する~」の部分は山の例のとおりですね。「変動大きな理由」にすれば、簡潔ですし違和感がなくなります。また、ここでの「変動」は薬の効き目が違うことを指しているので、「薬効が異なる大きな理由」とすることもできます。 


では次の例に行きましょう。 

For more complex calculations you can also use the custom calculator tool. 
より複雑な計算に対しては、カスタムカリキュレータツールを使用できます。 

こちらは「~に対して」というパターンです。意味は分かりますし、ものすごく変という印象を受ける文ではありませんが、わざわざこう書く必要はあるでしょうか?」だけの方がシンプルです。 

より複雑な計算は、カスタムカリキュレータツールを使用できます。 


次の例文も同様のパターンですが・・・ 

In Sales table, specify April to September for Period field and ABC Inc. for Customer field. 
[売り上げ]テーブルで、[期間]フィールドに対して 4 ~ 9 月および、[顧客]フィールドに対して ABC 社を指定します。 

 「に対して」が2回使われていますね。あと、真ん中の「および」というつなぎ方もよろしくありません。意味不明とは言わないまでも、伝わりづらい。「を」にすると少し分かりやすくなりそうですが、手順の説明のようなので、もう少し丁寧に書いて、以下のようにしてみました。 

[売り上げ]テーブルで、[期間]フィールドに 4 ~ 9 月を指定し、[顧客]フィールドに ABC 社を指定します。

For good

今回は「for」の「~に対する」「~に対して」という訳を別の言い方に変える例を紹介しましたが、もちろんこれらの表現が間違った日本語というわけではありません。違和感なく使える場面も無数にあります。 

反社会的勢力に対して毅然とした姿勢で臨む 
発展途上国に対する支援を一段と強化する 
大規模災害に対する備えを急ぐ 

しかし、「for」を視界にとらえたときに機械的に「~に対して」「~に対する」と訳していたら、簡潔にできたはずの表現が冗長になり、読みにくくなってしまうかもしれません。「もっとシンプルにできないか?」「『の』だけで通じないか?」などと意識することが大切だと思います。 

ご存知のように、「for」を辞書で引くとたくさんの訳語が見つかります。 

  • のために[の] 
  • 用[の] 
  • については 
  • にとって 
  • にしては 
  • にわたって 

etc... 


選択肢が多いと迷ってしまうこともありますが、しっくりくる言葉が見つかる可能性も高まります。たとえば、「~については」という意味があるなら、文脈によっては「~の場合は」と訳してもよさそうです(実際筆者は使ったことがあります)。 

こういう基本的な単語ほど、改めて辞書を引くと、「ああ、そういう意味もあったな」と再発見できることも。そんなうれしい再会を果たすためにも、文脈に照らして最適な訳文を組み立てるという意識は常に持ち続けたいものです。  

それでは、また次回の連載記事でお会いしましょう。

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