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国で異なる桁区切り ~翻訳と数字~

国で異なる桁区切り ~翻訳と数字~

産業翻訳/IT 翻訳では、気を配らなければいけない点は多々ありますが、特に「数字」にまつわる用語や処理には特に注意しなければいけません。数字そのものの間違いも、誤操作を誘発したり誤認識を生み出したりする可能性があるので重々注意する必要がありますが、中には非常にトリッキーで間違いやすいものもあり、知識として知っておいた方がよいものがあります。

今回は、実際に翻訳業務の中で出会った数字にまつわる注意点を共有したいと思います。

    目次[非表示]

    1. 1.Product は「製品」じゃない?
    2. 2.“10.000” は「十」? それとも「一万」?
    3. 3.どこで「丸める」べきか
    4. 4.以上でも以下でもない?
    5. 5.おわりに
    6. 6.川村インターナショナルの翻訳サービス

    Product は「製品」じゃない?

    突然ですが、以下の英文を翻訳してみてください。実際に依頼された原文を一部変更したものです。

    The calculation logic ensures that the total costs are equal to the product of the summed up total quantity and the price if the price was not changed in the corresponding period.

    この原文に含まれるトリッキーな単語として「product」があります。これは、四則計算の「」を意味する単語で、計算式や論理式を扱う文章で頻繁に出現します。

    上記の訳文のように “calculation” や “sum up” などの計算にまつわる単語が含まれている場合は比較的イメージしやすいですが、突然出現すると「製品」や「プロダクト」としてしまいがちなので、注意が必要です。訳例は以下の通りです。

    計算ロジックを使用すると、活動価格が該当期間内で変更されていない場合、合計原価が集計された合計数量と活動価格のに等しくなります。




    四則計算の他の表現も覚えておきましょう。​​​​​​​


    • 和 sum
    • 差 difference
    • 積 product
    • 商 quotient




    “10.000” は「十」? それとも「一万」?

    扱う数字のスケールが大きくなると登場するのが桁区切りです。また、場合によっては小数点以下の値も原文に含まれることがあるでしょう。

    ところで、桁区切り (digit separator) や小数点の区切り (decimal separator) が国によって異なることはご存じでしょうか。原文が作成された国や、内容で扱っている国を正確に把握しておかないと、訳出の際に誤った金額でローカライズしてしまう可能性があります。

    桁区切りに使用されるのはカンマ、ピリオド、空白などのパターンがあり、小数点区切りにはカンマまたはピリオドが使用されるのが一般的です。これらは国によって数パターンに分かれます。Decimal separator - Wikipedia(英語版) の ページから一部抜粋します。 (出典:Decimal separator - Wikipedia

    1,234,567.89 (桁区切りにカンマ、小数点にピリオド)

    オーストラリア、カナダ 、中国、日本、韓国、ニュージーランド、タイ、イギリス、米国、など

    1.234.567,89 (桁区切りにピリオド、小数点にカンマ)

    ウルグアイ、アルゼンチン、オーストリア、ベルギー、デンマーク、ドイツ、イタリア、など

    1 234 567,89 (桁区切りにスペース、小数点にカンマ)
    ブラジル、ブルガリア、チェコ、ノルウェー、ロシア、南アフリカ、スウェーデン、など

    同じ国でも記入する文書や、地域によって使用されるパターンが異なるケースがあったり、複数の形式を使い分けていたりするケースもあります。また、中国の一部では万単位で桁区切りを行ったり、クロアチアの一部の地域では通常ピリオドで桁区切りを行うが100万の区切りだけカンマを使用したり、などのイレギュラーなケースもあるようです。

    このように、国や地域、文書や形式によって様々な桁区切り/小数点区切りが使用されるので、まずは「多種多様である」という認識を持って数字の処理にあたるのが正解でしょう。

    ​​​​​​​

    どこで「丸める」べきか

    英語で四捨五入は “Round off” または “Rounding” などと表現します。四捨五入の指示やそういった数字を扱うという内容は頻繁に登場しますが、以前に実際の計算式の表現が出てきたことがありますので紹介します。

    英語での四捨五入の表現は日本語とかなり異なります。次の四捨五入を日本語と英語で記載してみます。

    1.2345 → 1.235

    • 日本語→小数第 4 位で四捨五入する。
    • 英語→Round off to three decimal places (または Round off to the nearest thousandth)

    わかりますでしょうか。英語では処理をする第 4 位に対する言及がありません。英語のほうを訳出すると、「四捨五入して小数点第 3 位までの表記にする」となります。つまり、日本語では四捨五入する対象の位に注目していますが、英語では最終的な計算の結果に注目している事が分かります。

    その他、四捨五入に関する表現を集めてみました。

    • 一円未満切り上げ →  round up to the nearest yen
    • 小数点以下四捨五入 → round off to the closest whole number
    • 少数点第3位以下切捨て → round down to two decimal places

    Round” には動詞として「角がとがっているものを丸める」という意味がありますが、まさに細かい数字の部分をそぎ落としているイメージを持つとよいかもしれません。(まさに「round number」は切りのよい数字「概数」という意味ですので。)


    以上でも以下でもない?

    こちらも頻出表現です。そして、よく誤訳が発生している用語でもあります。

    早速ですが、以下の英文はどのように訳出しますか?


    More than 100 people answered the questionnaire.

    「100人以上の人々がそのアンケートに答えました。」などと訳出することが多いのではないでしょうか。

    トライアル文書でもMore than を「~以上」と訳出している例をよく見かけます。ですが、More than は正確には対象となる数字 (上記の例では 100) を含みません

    そのため正確には「100人を超える人々がそのアンケートに答えました。」などとするのが正確です。100 人以上の場合は主に「100 people and over (または or more) answered the questionnaire.」などと表現することが多いようです。

    「以下」としてしまいがちな “less than” ですが、こちらも基本的には表記してある数字を「含まない」ため、「~未満」とするのが正しいです。「以下」としたい場合は “or less” や “or under” が正確かつ一般的なようです。

    ただし、正確な数字が求められていない、こだわらなくてもよい場面 (ニュースでの金額や人口など、正確なしきい値を伝えるものではなく規模感を伝えるようなケース) では、わかりやすさから more than/less than を以上/以下としてよいとされているようです。ケースバイケースで自然な表現を目指すとよいでしょう。


    おわりに

    数字は、ほぼ原文の情報そのままを表現するため、翻訳では比較的楽な訳出箇所と見なされていますが、逆にあいまいな定義が許されない箇所でもあります。

    以上のようなことを念頭において、数字の表現に注意していればよりよい翻訳を仕上げることが可能になるはずです。

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