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個々に異なるニーズに応える品質向上とは【特別対談】翻訳品質と標準化 ⑤


<目次>


はじめに

日本翻訳連盟(JTF)とJTFスタイルガイド

スタイルガイドから翻訳品質評価全体へ

実はあまり普及していない、海外初の品質評価フレームワーク

Garvinの5分類とPreference

翻訳業界のこれからについて


Garvinの5分類とPreference


森口  次に、国際標準規格の話に移りたいと思います。

MQMやDQFという話がありましたが、ISOでも標準化の動きがありますよね。最初にもお話したとおり、ISO 17100:2015という翻訳のプロセスの標準化のように、プロセスが品質を確保するという考え方のもとにできた規格もあれば、ISO18587:2017といって機械翻訳のポストエディット(機械翻訳の出力結果を人が修正するという規格)もできたりしています。

そんな中、西野さんが今まさにかかわられている21999が議論されていますよね。

ISOだけでなく、アメリカの標準化推進機構であるASTM などでもLQAに関する規格が議論されているのは私も知っているのですが、この動きについてはどうですか。


西野  ISOとASTMのほうは、まだドラフトを策定している段階なので、なんともいえない部分もありますが、MQMに関していうとそういった規格の中でも比較的受け入れら始めています。

欧州委員会ではMQMを積極的に使うことを推進しています。ポジティブな面をまずお話しすると、国際取引などで評価方法が一本化されるとビジネスが円滑に進むと思います。



ネガティブな面としては、MQMもDQFも、昔からのLISA QA modelモデルもそうですが、エラー評価が唯一の品質評価の手法だと思われてしまいます。エラー評価は、翻訳成果物の中に存在する、あらかじめ決めたエラーカテゴリに該当する誤りを指摘して、それに対して重大度に応じて点数をつけるというものです。

比較的客観的な評価をくだせるので便利ですが、たとえば最終読者にはなんとなくわかりにくいといった評価は排除されてしまいます。

翻訳の品質はさまざまな側面があるので、エラー評価をベースにした評価手法が一般的にひろまってしまうと、そういった最終読者よる主観評価みたいなものが排除されてしまう危険性があるのがデメリットですね。


森口  改善という概念が入ってくると、数値化していることは非常にポジティブになってくるとは思います。

現状の品質がどういう水準にあって、これからどういう方向に進むべきなのかを判断する指標には使えると思いますが、西野さんがおっしゃったように、エンドユーザーの目線を考慮した場合にどうなのかとか、最終的に1つの翻訳としてみたときにどう受け止められているか、翻訳業界としては評価が難しいところではありますよね。

誰からの目線で品質を考慮すべきかに関しては、西野さんが以前からお話しされているGarvinの5分類のお話が分かりやすいと思います。


西野  Garvinはアメリカの経営学者です。Garvinは品質に対する定義を分類すると大体5つにわかれるのではないか、と説明しています。具体的にはまず、「超越的(transcendental)」というものがあります。これは品質の善し悪しを直感的に判断する、特に専門家みたいな方が直感的に判断するものです。これは主観的な要素が強く、評価も主観的なものになります。

2つめは「プロダクトベース」です。これは計測可能な数値で判断をするものです。翻訳業界でよく使われているエラー評価はこれに該当します。

3つめは「ユーザーベース」といって、ユーザー、あるいは最終読者が好みで判断するものです。ユーザーの主観的な評価になります。

4つめは「生産ベース」で、用語としては、経営学者Garvinが提唱した説をさらに翻訳業界関係の学者とか関係者が書き直したものです。「生産ベース(production-based)」と言われているものなのですが、あらかじめ定めた要件や仕様をどの程度満たしているか、で品質を判断するものです。


森口  日本の製造業の品質設計のやり方に近いものですかね。


西野  JTFの翻訳品質ガイドラインはこの「生産ベース」を基盤にして、翻訳品質は、仕様をどの程度みたしているかというものにしています。

最後、5つめは「価値ベース(value-based)」というものがあり、これは費用と便益の比較から品質を評価するという考え方です。

たとえば、「プロダクトベース」では品質が非常に高かったとしても、費用がものすごく高価なものだとしたら、相対的に品質評価が落ちますし、時間もコストも要せずある程度の品質を確保できれば、相対的に評価は高くなります。


森口  自動翻訳を取り入れようとする企業が増える中、自動翻訳は安くて早い一方で品質についてはまだ人手の翻訳には及ばないとよく言われます。

これも品質を軸として判断したときに、自分の要求品質に対してどれだけのコストをかけていいのか。つまり、品質をコストとして算出した、その感覚が最後の価値ベースということですよね。

ただ品質って非常に難しくて、特に超越的あるいはユーザーベースのものが多いのかなと個人的には感じています。

たとえば、お昼休みになって、昼食に何を食べようっていうときに、弁当を買おうとなったとしますよね。でも、コンビニで買う人もいれば、仕出し屋だとか弁当屋さんのお弁当食べたいという人もいれば、どういう添加物が使われているかわからないから自分の作ったものしか食べない人もいる。

味だけがメインになっているのではなく、栄養価とか、添加物とか、いろいろなところを選ぶのではないかと。最近は健康ブームもあって、別の評価ポイントも加わってきますよね。あとは値段とか、ポイントがたまるとか。

昼食を弁当と決めた時に、品質は決まるわけではなく、そういう好みのようなものを判断すべきという意見もある。好み(Preference)のずれや、把握漏れが原因でクレームにつながることもある。翻訳業界ではよくある話なのですが、それに関してご意見ありますでしょうか。


西野  品質評価ガイドラインでも触れているのですが、主観評価が必ずしも悪いわけではなく、それをうまく客観評価に落とし込んで改善していくのがビジネスとして翻訳を提供する上では大事なのかなと思います。

たとえばお客さまの「なんとなくおかしいんじゃないかな」という主観評価をフィードバックとして受け取った翻訳会社の側が、「顧客の好みに基づくエラー」として分類して、客観的な評価項目に落とし込んで、その基準に基づいて次の仕事を評価して改善するということですね。


森口  改善に繋がる話になりますよね。好みはやってみないとわからないというケースもあって、それゆえに1回で評価をされてしまうと辛いところですが。

「ここはこう訳してほしかった」というフィードバックをしていただいてはじめてわかることもあるのですが、そういった長期的改善の視点を想定したガイドラインにもなっているということですか。


西野  仕組みとして改善を取り入れているわけではありませんが、エラー評価だけが絶対的なものではなくて、品質の向上のためにはお客様や一般ユーザーの主観評価をうまく取り入れて(引き出して)、指標を改善していくことが大事だということは盛り込んでいます。


森口  お客様ごとにニーズは異なっているので、柔軟にカスタマイズするということですね。実際に、お客様が求めるものは各種多様にいろいろ基準が出てくるので、吸収して、理解して落とし込んでいかなければいけないな、というのはありますよね。

ISOに話を戻すと、21999は策定中ですし、あまり話せることがないかもしれませんが、ニーズとしてはMQMとかLISAなどの評価指標を参考に整理し始めている、という感覚ですかね。


西野  そうですね、LISA QA modelをベースにして、現在の業界で行われている慣習みたいなものを盛り込んで作っている、ということでしょうか。


森口  業界標準を国際会議の場で議論すること自体は非常にいいことだと思います。やはり欧米というか、作っている人たちが気づかないような、ユーザー目線でいったときの好みもあるし、日本という国の特徴もあるし、そういったものを考慮しながら標準化されたものを使っていかないといけないということですね。


⑥に続く

KIマーケティングチーム

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川村インターナショナルWebマーケティングチームです。開催予定セミナーやイベントの告知、ブログ運営などを担当しています。

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