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ポストエディット導入の前に知っておきたい5つのポイント

1.機械翻訳の質を評価する

 

ポストエディット作業は、機械翻訳の出力結果をポストエディターと呼ばれる作業者が修正して、人手による翻訳に近付けるサービスです。機械翻訳の出力結果が悪ければ、近付ける作業の負担が大きくなるのも当然です。

 

機械翻訳の精度を評価するために、まず機械翻訳の出力結果を既存の翻訳会社に渡してポストエディット作業を依頼するか、自社内の翻訳対応できる方、あるいはいつもお願いしている翻訳者にポストエディットを実施してみてもらいましょう。

 

翻訳会社に依頼する場合には、その翻訳会社が自社の翻訳者のトライアルで合格にする人手翻訳レベルをターゲットとしてほしいと指示してください。要するに、プロの個人翻訳者が通常納品している翻訳品質レベルと同等という意味です。

 

その作業にかかった時間(h)を報告してもらってください。その文書を一から人手で翻訳した場合にかかる時間を(H)とした場合に、(H)=T(p)×(h)の数式にあてはまるT(p)の値を求めます。これが生産性のアップ率になります。

 

当社の場合はこのT(p)が1.7以上であればポストエディット可能とお応えしており、また、それぐらいの生産性ですと、ポストエディターも概ねポジティブな反応を返してくれています※1

 

※1あくまで当社における参考値です。今後も継続的に検証してまいりますので、数値は変更される可能性があります。

 

2.ポストエディターについて知る

 

前段でも説明しましたが、ポストエディターのポジティブな反応というのは、非常に重要です。どんなにポストエディットを導入したくても、作業者がいなければ始まりません。

 

一般的に、翻訳者とポストエディターのスキルセットは異なると考えられています。「具体的にどういう違いがあるのか」や、「どういう方がポストエディターに向いているのか」については今後の学術的テーマとして是非掘り下げていただきたい点ではありますが、「翻訳者」に「ポストエディット作業」を依頼した場合に、その業務が向いている方と向いていない方、つまり生産性が上がる方と上がらない方がいることを想定しておきたいところです。

 

もうひとつ重要なのは、「向いている」「向いていない」に関わらず、ポストエディット業務を好意的に受けとめている翻訳者はほぼ皆無であるということです。どんなに生産性が上がろうと、通常の翻訳業務として発注される案件が別にあり続けるのであれば、現状ではほとんどの翻訳者が翻訳の案件を選ぶはずです。

 

機械翻訳を活用することで生産性がアップするといったメリットが増えること以外にも、作業者に対するインセンティブが何かしら検討されないと、ポストエディター不足の状況はなかなか解消されないと思います。これは発注する側は(もちろん翻訳会社も)、念頭に置いておく重要なポイントになります。

 

3.      国際標準を参考にする

 

「翻訳サービス(Translation services)」に関する要求事項を規定した国際標準規格ISO17100:2015が2015年5月に発行されてから二年が経過しようとしています。同年10月以降、日本においては日本規格協会によるTSP(Translation Service Provider) 認証が開始され、2017年3月末の段階で、26社のTSPが、同協会による認証を取得しています※2

※2日本規格協会ホームページより。

 

一方で、機械翻訳出力を人間が後編集するいわゆる「ポストエディット(post-editing)」に関連する国際標準規格についても、現在(2017年4月) ISO/FDIS  18587として発行前夜の段階にあり、2017年中にはISOとして発行される見込みです。

 

今回この場では規格の内容を細かく説明する予定はありませんが、作業者(ポストエディター)に対する要件や、制作プロセス、ターゲット品質について国際標準が存在することの意義は非常に大きいため、是非参考にしていただきたいと思います。

 

4.通常の翻訳サービスのプロセスと比較する

 

「ポストエディットの導入を検討するのに、なぜ翻訳サービスのプロセスを知る必要があるの?」とお考えになるかもしれませんが、業界的にも、翻訳サービスのプロセスとの違いを発注者に対してうまく説明していないことが多く、このためにポストエディット業務のプロセスに対する誤解が生じているとも言えます。

 

普段TSP(翻訳会社など)に翻訳を依頼している方であれば期待しているターゲット品質はこれと同レベルと想定しているかもしれません。そもそもそれが実現可能なのかはケースバイケースなのでここでは置いておきますが、通常翻訳会社は、翻訳者が翻訳をした後にセルフチェックを要求しています。その後、原文と訳文を見比べながら誤訳・訳抜けなどがないか、別の人手によるチェックを行っているのが通常です(ISO17100に準拠している場合は必須です)。

 

人は間違いを起こす可能性もありますから、別の人間の目で、正しく訳されているかを確認することで、リスクヘッジをしています。

 

要するに、ポストエディットをする際にも、こうしたチェック作業を実施するのかどうかは明確にする必要があります。チェック作業が実施されることよって工数が増えるため、当然、金額も異なってしまいます。

 

ちなみにT(p)=2.0 で生産性が倍になっていれば、費用は半分になると思いがちですが、チェック作業を実施するのであれば、費用は半分とまではいかず、20%~30%の低減にとどまってしまうでしょう。

 

 5.ポストエディットガイドラインを作る

 

ポストエディットは、①使用する機械翻訳エンジンおよび投入するリソース(対訳データ・用語集など)と、②導入する目的およびその目的に応じたターゲット品質によって業務の内容が大きく変わるサービスです。

 

例えば①によっては、エラーや修正項目のパターンが変わります。そして②によってはどこまで修正するかが決まるはずです。そして、②を明確にできれば、結果として「ポストエディットガイドライン」が出来上がります。こうしたガイドラインを明確にすることがポストエディットをスムーズに導入する重要なポイントになりますし、単価面での合意にもつながります。

 

ガイドラインは、更新し続けることが重要です。作業関係者からもらったフィードバックを取り込んで継続してアップデートしてゆくことができれば理想的です。

 

ポストエディットだけが選択肢ではない

 

最後に、ポストエディットだけが選択肢ではないことを知っておくことも大切です。ポストエディットの導入を検討する際には、それ以外の選択肢も検討してみるとよいと思います。

 

納期の大幅な短縮が目的ならば、機械翻訳を活用しなければ解決できないことも多いですが、品質を重視するならば、やはりポストエディットよりもプロの翻訳者に依頼するのが確実です。

 

それでもコストを低減したいのはあたりまえでしょうから、第三者によるチェックの確認項目を減らしたり、チェック自体なくしてしまったりすることも一つの手です。いつも依頼をしている翻訳者さんや、翻訳会社に、工数削減のアイデアについて直接相談してみるのも良いでしょう。

 

森口功造

森口功造

株式会社川村インターナショナル常務取締役。ISO TC 37 国内委員として、主にISO17100およびISO18587の策定に関わる。機械翻訳エンジンの活用や翻訳関連の標準化推進に注力。

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