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【特別対談】機械翻訳の現状と展望は?⑦これから注目すべき「分野」

半期に1回の特別対談企画。開発研究がすすめられるASEAN言語の次世代型機械翻訳エンジンは、どの分野に焦点を当てていくのでしょうか。その答えは「医療」。理由に迫ります。


目次

  1. タイの最先端研究施設「NECTEC」とアプリ開発
  2. 東南アジアにおける機械翻訳研究の興りとその難しさ
  3. 自然言語処理とオントロジー
  4. ちょっと一息 タイの小話
  5. ハイブリッド型がアツい!機械翻訳の今後の展望
  6. ASEAN言語における機械翻訳エンジンの今後
  7. これから注目すべき機械翻訳エンジンの「分野」~ASEAN諸国を例に~





これから注目すべき機械翻訳エンジンの「分野」

前田:
ちなみにこのASEAN言語の次世代型エンジンは、やはり分野特化型なんでしょうか?

テプチャイ:
そうですね。たぶんそうなると思います。汎用性を目指すにしても、どちらにせよ大量のコーパスが必要になります。であれば、1つの分野に集中して始めた方が効率がいい

前田:
そうするとやはり、まずは「観光」でしょうか?

テプチャイ:
医療」のエンジンを作りたいと思ってます。たしかに「観光」の方が、現在の研究から再利用もしやすいんですが、「医療」は潜在的なニーズが非常に高い
まぁ、現時点では何とも言えないけどね。

前田:
医療」ですか…。

テプチャイ:
ASEANは、「ヒト・モノ・カネの流れを自由にする経済共同体」です。

EUのように共通の通貨があって、どの国でも同じEURで買い物ができるわけではありませんが、原則として観光目的でのビザは不要だし、圏内での就労許可の緩和もここ数年でだいぶ進みました。実際にタイにもミャンマーやラオスから出稼ぎに来ている労働者がたくさんいます。
そしてこういった外国人労働者(=タイで働くミャンマー人やラオス人)も、タイの社会保険制度の適用対象に入るんですね。

ただ、彼らの多くはタイ語を理解しなかったり、理解したとしても日常会話程度ということが少なくありません。そのため、例えば風邪をひいてしまった時や、怪我をしてしまった時に、病院に行けない
行ったとしても、医師や看護婦とうまくコミュニケーションが取れなかったりするんです。

前田:
ああ、確かに。外国で病院に行くのはただでさえ緊張します。その上、言葉もうまく通じないとなると、尻ごみしてしまいます。


​​​​​​​


テプチャイ:
それともう一つ。さっきも話しましたが、ASEANは加盟国の間でまだまだ経済格差や発展格差があります。それは教育医療サービスにも言えることで、例えばミャンマーはタイほど医師や病院の数、設備が充実していません。

そこでより良い医療を求めて、治療目的でタイにくるミャンマー人が年々増加しており、ミャンマー人向けの受付カウンターを設置している病院もあるくらいです。

前田:
いわゆる「メディカル・ツーリズム」ってやつですね。

でも「メディカル・ツーリズム」と言えば、どちらかというと、欧米や中国の富裕層向けという印象でした。

テプチャイ:
国家の産業戦略、成長戦略という点では、たしかに富裕層向けのビジネスです。実際、治療目的でミャンマーからタイに来る人もやはりお金持ちが多いですから。

あと国境付近にはやはりそういうニーズが多い。「メディカル・ツーリズム」で話題になるような最新鋭の病院ではなくとも、少しでも良い医療サービスを求めて、たくさんの患者が国境を超えて来るんです

前田:
日本は島国ですから、陸路で国境を越えて病院に行くっていうのはなかなか実感がわきませんが、そういう話は聞いたことがあります。

ちなみに現在、ASEANでは医療保険制度の整備が急ピッチで進められてますよね。将来的に、この保険制度がASEAN加盟国間で相互利用できるようなれば、先端治療をもっと受けやすくなりそうですね。

テプチャイ:
そうですね。とても難しい課題だと思いますが、そうなるといいですね。

少し話がそれましたが、そういった病院内でのコミュニケーション、医師と患者のコミュニケーションを、機械翻訳で手助けできればと思うんです。「メディカル・ツーリズム」の対象になる病院には、専属の通訳者がいたり、外国語が話せるスタッフがいます。

しかし、自分の身体に関することは、やはり自分の口から説明して、自分の耳で聞きたいですよね。ちょっとしたニュアンスが伝わらなかったり、通訳者を通して言いづらい症状だったり、まぁ色々ありますよ。

自分の言葉で話す(あるいは入力する)。それを機械翻訳が相手の言葉に「正しく」翻訳する。そういう一対一のコミュニケーションオンタイムで実現するサポートをしていきたいですね。

前田:
なるほど。機械翻訳を活用して、言葉の壁を超える。そして言葉を超えることで、様々な障壁や格差を超える。ということですね。

テプチャイ:
なんかえらい大げさな話になってますね。

まぁとにもかくにも、まずはコーパスやで。前田さん、仕組み作りとコーパス集め、早いところ頼むで!

前田:
​​​​​​​ええええええええええ!!!!




本日のゲスト

Dr. Thepchai Supnithi


タイ国立電子コンピューター技術研究センター(NECTEC)

Lab Director, Language and Semantic Technology Laboratory

工学博士。

自然言語処理、オントロジー、教育分野におけるAI活用の研究に従事。​​​​​​​


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【インタビュアー】前田耕二

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KI Hong Kong, Limited 代表取締役。 川村インターナショナル香港現地法人の代表として2012年より香港にて勤務。 中国語および東南アジア言語のローカリゼーション業務に従事。

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