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【特別連載】翻訳における用語集の利活用

みなさん、用語集は活用していますか?用語集は様々な目的で作成されますが、たとえばそのうちの一つに、翻訳作業があります。用語集は翻訳の品質を左右する重要な構成要素です。ある言語から別の言語に翻訳する際に、同一のものを別の名称で書き換えていては、文書の整合性もおかしくなりますし、それによって論理性も破綻します。


では、用語集がないとどのような問題が発生するのでしょう。そして、用語集の利点とは何でしょうか。


企業で翻訳に携われる方々にとって「用語集」は非常に関心の高いテーマです。こうしたニーズに応えるべく「用語集の利活用」をテーマにして連載記事をお届けすることになりました。今回はその第一弾です。

目次[非表示]

  1. 1.そもそも用語集とは?
  2. 2.用語集を作成するメリット
    1. 2.1.文書の信頼性向上
    2. 2.2.文書品質の向上
    3. 2.3.作業効率の向上
    4. 2.4.ブランドイメージ
    5. 2.5.費用逓減
  3. 3.翻訳と用語集
  4. 4.まとめ
  5. 5.川村インターナショナルの翻訳サービス

そもそも用語集とは?

用語集(Glossary)とは、一般的に単語、あるいは複合語の意味的な定義(Terminology)が詳細に記述されているものの集まりを指します。ビジネスの領域では、利害関係者の中で呼称や概念を統一することで、スムーズな情報交換・伝達が行われるようにするために活用されています。公的機関や、標準化団体、業界団体などの第三者が作成した用語集を活用するケースもあれば、社内のコミュニケーションの円滑化の目的で単独の企業だけで利用される用語集を作成するケースもあります。例えば以下のようなものが含まれます。

  • 辞書や辞典などのように、一般的な単語または複合語に定義を付与したもの

  • 地名や人名などのように、固有の名称を示すが広く一般的に共通して使用されるもの(固有名詞)

  • ISOなどの国際標準規格の中で定義されるように、特定の業界に特化した単語または複合語に定義を付与したもの

  • メーカー企業内の開発や設計部門の担当者の間で共通認識を得る目的で作成されたもののように、ある特定の組織でだけ使用される目的で、単語または単語複合語に定義を付与したもの

  • 自社の製品やサービスの名称などをマーケティングや販売活動のために統一するような、固有名詞に近いものも企業では用語として管理されます(この種のものは商標登録がなされ、模倣されないような措置がなされます)

つまり、「用語集」と一言でいっても、辞書のように汎用的で広い領域をカバーするものもあれば、一つの企業内といった狭い領域でしか活用されないものも存在することを理解することが重要です。一般的に、広義の用語集よりも狭義の用語集が優先される「ピラミッド」のような構造をイメージすると理解がしやすくなります。

用語集を作成するメリット

用語集を作成する目的には、すでに述べたような「スムーズな情報交換・伝達」以外にもいくつかメリットが存在します。

文書の信頼性向上

たとえば、ある文書の中で使用されている用語が揺れていては、同一のものを指し示していることを読者に理解してもらえません。これによって、誤解が発生してしまう恐れがありますが、それを回避することができるようになります。

文書品質の向上

通常、用語集が存在しない翻訳プロジェクトの場合には、翻訳者の背景知識や専門分野に基づいて用語の翻訳もなされ、品質管理担当や翻訳チェック担当者がその裏付けをしながら確認を行いますが、特定の企業の内だけで使用されているような用語については、準拠はできません。こうしたケースでも間違った用語が使用されることによって、読者に誤った情報を提供することなってしまいます。用語集が存在すれば、こうした事態は回避できます。

作業効率の向上

翻訳者は、通常使い慣れた辞書や、専門分野に特化した用語集のほかに、インターネット上の情報を検索しながら、訳語を決定しています。この検索・調査にかかる時間が削減できることにより、翻訳作業自体の生産性は大幅にアップします。

ブランドイメージ

用語の間違いにより、企業のブランドイメージを損ねてしまうケースもあります。機械翻訳で処理した大阪メトロの公式サイト上で、「堺筋線」が「Sakai muscle line」と訳されてしまったことがニュースになっていましたが、こうしたミスは、「堺筋線=Sakai-suji line」と用語を登録しておくことで避けられた問題でもあります。用語の間違いがブランドイメージを大きく毀損してしまうことがあります。

費用逓減

最後に、用語集を作成する一番大きな目的は、翻訳にかかる費用の低減です。用語集が存在しないことによる確認・検証作業、修正作業はチェックのコストとして計上されています。後述しますが、対訳(バイリンガル)形式の用語集がある場合には、用語集が正しく適用されているかを自動でチェックするツールを利用して作業コストを低減することができます。

翻訳と用語集

本題である翻訳と用語集の関係性を議論する前に、モノリンガルの用語集とバイリンガル用語集とがあることを知っておきましょう。一般的な「用語集」は日本語で作成された専門用語を集めたものです。たとえば、金融・IRの分野では、日本取引所グループがWebで用語集を公開していますし(https://www.jpx.co.jp/glossary/)、日本循環器学会では循環器学の用語集を公開しています(http://www.j-circ.or.jp/yougoshu/searches/word)。

翻訳をする際には、こうしたモノリンガルの用語集はもちろん役立ちますが、ターゲット言語の定義が対になったバイリンガル状態の用語集が威力を発揮します。バイリンガルの形式になっていることで、翻訳者にエクセルやWebベースの用語集を配布して、作業をする際に参考にできるだけでなく、Xbenchと呼ばれる品質チェックツールで自動検証ができるようになります。社内にモノリンガルの用語集がある場合には、それを翻訳することで、バイリンガル形式の用語集を作成することは可能です。

また、多言語の場合には、さらにマルチリンガル(2言語以上)の用語集を作成することもできます。バイリンガルやマルチリンガル形式の用語集に使用されるデータ書式には、TBX (Term Base eXchange) と呼ばれる、構造化された概念指向の用語データを記述する国際規格 (ISO 30042:2008) が存在します。TBXはXMLをベースにしていますが、この標準規格を利用すると、ほぼすべての翻訳支援ツールで使用できるという利点があります。

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まとめ

いかがでしょうか。今回は内容をまとめてみます。

  • 用語集(Glossary)とは、一般的に単語あるいは複合語の意味的な定義(Terminology)が詳細に記述されているものの集まりを指し、スムーズな情報交換・伝達が行われるようにするために活用されている。

  • 用語集は、辞書のように汎用的で広い領域と狭い領域をカバーするものが存在し、広義の用語集よりも狭義の用語集が優先される「ピラミッド」構造を形成している。

  • 用語集には、費用逓減ブランドイメージの向上などのメリットもある。

  • 用語集にはモノリンガルとバイ(マルチ)リンガルのものが存在し、翻訳作業には、バイリンガルのXML書式であるTBX形式を活用すると様々な環境で利用ができ、自動検証などで効率化することができるメリットがある。

次回は、これらの用語集を作成するノウハウを共有します。


川村インターナショナルの翻訳サービス

川村インターナショナルでは、用語集に準じた翻訳を提供することはもちろん、用語集の作成も承っております。

対応分野は、IT・ローカリゼーション、医療機器・医薬、金融・IR・法務、観光・インバウンド、製造業、SAP 関連文書など。お客様の業種・専門分野に応じて最適な翻訳者が対応いたします。お客様が抱えるあらゆる問題について、包括的なソリューションを提案いたします。翻訳依頼・見積もり依頼はこちらのフォームから、お気軽にお問い合わせください。


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