UI翻訳をラクにする2つの秘訣

翻訳会社は、あらゆる分野における様々なタイプのドキュメントを翻訳対象として取り扱います。

そんな中でも特に異彩を放つものがIT分野における「UI(ユーザーインターフェイス)」翻訳です。

UI翻訳がなぜ大変か、という記事はすでに掲載していますが、今回はそんなUI翻訳の大変さを少しでも軽減するためのコツをUI翻訳独特の特徴と絡めながら「翻訳メモリ」と「用語集」の側面からご紹介します。

アジャイル型のUI翻訳って?

そもそも「UI」とは何でしょうか。少しだけ振り返ってみます。

この記事を読まれている皆さまは、どのような端末で閲覧しているのでしょうか。PCタブレット、またはスマートフォンで読んでいるかもしれません。しかし、どのような端末で閲覧されているとしても、「ブラウザー」や「ブックマーク」、または「開始」などのアイコンやボタンをクリックまたはタップされてきたのではないでしょうか。
この、端末を操作して情報をやりとりする要素は「ユーザーインターフェース(以下UI)」と呼ばれています。

既にこちらの記事でも詳細に解説していますが、UI翻訳の主な特殊性は以下の3点にまとめられます。

  • 文脈が分からず訳しにくい
  • 既存のUIを勝手に変更してはいけない
  • 頻繁に更新が発生するため、翻訳も都度発生する

特に、一般的に多くのIT企業では、システムやソフトウェアの開発手法として「アジャイル型開発」を採用しているため、UI翻訳はシステム開発に伴い絶えず新たな翻訳対象が生み出され続ける特殊な性質を持つということになります。

★アジャイル型開発について補足★ 

アジャイル」(Agile)とは、英語で「機敏な」「敏しょうな」を意味します。アジャイル型開発では、開発対象の大きなソフトウェアやシステムを細かく機能ごとに分割し、小さな単位での実装とテストを繰り返し開発を進めていきます。この手法を採用すると、対象のソフトウェアやシステムには細かいスパンで新機能が追加され、そのたびにアップデートがなされます。新機能が追加されると、新たなUIも増えます。

アジャイル型のユーザーインタフェース(UI)翻訳では、スタイルガイド用語集翻訳メモリを駆使しながら翻訳を進めていきます。スタイルガイドや用語集の概要については以前ご紹介させていただきましたので、ここではUI翻訳における翻訳メモリと用語集の重要性と、運用上の注意事項を、作業の特徴訳文選びと絡めながら解説します。

UI翻訳で特に重要な翻訳メモリと用語集

翻訳メモリ用語集は、どのようなドキュメントタイプの翻訳案件でも準備することが好ましいです。そして、UI翻訳ではそれらを作成することが特に重要と言えます。なぜでしょうか?理由を2つ挙げてみました。

①メモリがたまりやすい

上記で触れたとおり、アジャイル型のオンラインUI翻訳では、システム開発に合わせて翻訳が都度発生します。コンスタントに翻訳が発生するため、長く続けているプロジェクトでは既存訳がどんどん蓄積されていきます。そのため、既存訳や過去訳を効率よく参照するためにも、UI翻訳を検討される場合は翻訳メモリ・用語集を作ることが絶対におすすめです。
メモリや用語集が充実すればするほど、効率があがり、コスト削減納期短縮を実現できます。メモリのたまりやすいUI翻訳は、翻訳メモリ・用語集の力を存分に享受することのできるタイプの案件の一つといえるでしょう。

②複数の作業者が作業する

アジャイル型のUI翻訳では往々にして、主に以下の2点の特徴から訳ぶれが発生します。

  1.      プロジェクトが大きい
  2.      携わる翻訳者の人数が多い

過去案件と依頼の履歴を毎回参照し、なるべく同じ分野の同じ箇所を同じ翻訳者に依頼できるのが理想ですが、以前の記事でもご紹介したとおり、案件スピードが速いため、常に同じ翻訳者に依頼できないことが多々あるのが現実です。また、大型の案件を短納期で処理することが求められた場合(アジャイル型では頻繁に発生します)、複数の翻訳者に作業を依頼するため、訳のぶれが発生します。

翻訳メモリ用語集があると、複数の翻訳者で作業した場合も、訳のぶれを最小限に抑えることができます。品質保証ツールを活用した自動的なチェックを利用することもできるので、品質の維持作業効率の向上を同時に実現することが可能です。

UI翻訳の作業の特徴と翻訳メモリ

それでは、UI翻訳ではどのようにして翻訳メモリが活用されるのでしょうか?まずはUI翻訳の特徴に着目してみます。

アジャイル型のUI翻訳では、画面の項目やボタン、メッセージといった機能や表示される文字の追加はもちろんですが、原文タイポの修正や、複数形のs、句読点、ハイフンやコロンなどの記号の追加/削除といった細かいアップデートも全て作業対象として取り扱います

そのため、CAT(コンピュータ支援翻訳)ツール翻訳メモリを用いて作業すると、このような細かい修正のほとんどは日本語訳には影響がないことが多く、作業の負荷は格段に軽くなります。
たとえば、英語で「Field」という原文が「Fields」に更新されたとしても、日本語では単複の違いがないので影響を受けません。このような細かい変更が多い案件では、翻訳メモリを流用するだけでほとんど作業が終わる、といったこともあり得ます。

しかし、その分小さな違いも見落としのないよう、注意深く確認する必要があります。また、稀に全く異なる訳文が登録されている場合もあるため、翻訳メモリに頼りすぎるのはNGです。

翻訳メモリの注意点 - 入力長の縛

他にも、翻訳メモリに頼りすぎてはいけないケースを、UI翻訳の特徴を通じて1つご紹介します。

パソコンやスマホの画面に表示できる文字数には限りがありますので、UIの各テキストには入力長が設定されていることが多いです。
そのシステムがどの文字コード体系を使用しているかで入力可能文字数は異なりますが、とある入力項目で20と設定されている場合、多くはバイト数で設定されており、半角英数字では20文字、ひらがなカタカナや漢字などの全角文字では10文字入力が出来ることを意味します。
そのため、原文では文字数が足りるのに、日本語で全て訳そうとすると入力長が足りない場合がたまにあります。この場合、原文の意味が取れる最低限まで訳文を略するか、UIの一部を英語のままで登録するか、他の方法を考えるかを判断します。

この文字制限が存在すると、翻訳メモリを流用しても文字数で引っかかってしまったりして、メモリを単純に流用するだけでは収まらないことも発生します。翻訳メモリを活用する場合でも、この点に注意する必要があります。

*Unicodeを採用しているシステムの場合は、設定されている入力長 = 文字数となります。

メモリのメンテナンスが大事!訳が20通り?

さて、翻訳メモリを運用するうえで、さらに注意すべきことが「メモリのメンテナンス」です。

多くの方が、「メモリは多ければ多いほうが翻訳の助けになるのでは…」と思われるでしょう。実際、助けになることの方が多いのですが、たとえば1単語に対して複数の訳が登録されてしまっている場合は、適切な訳を決めるのに困ってしまいます。時には、文脈に合ってない訳語が採択されてしまうかもしれません。
このような事態を防ぐために、定期的に翻訳メモリを確認・整備していくことが重要です。これにより、翻訳の質と作業効率を保つことができます。

実際、製品によって単語の意味が異なる場合、翻訳メモリのひとつの単語に20通り以上の訳が登録されていることがありました。同オブジェクトのほかの箇所で同じ単語が使用されている場合は訳語を揃えますが、オブジェクト内に1つだけ、しかもその文がどう使われるかも分からない場合は、まわりの訳文に合わせて違和感のない訳語を採用します。複数の訳語が無意味に登録されてしまっていると混乱を招きかねませんので、メモリは定期的に確認し、整備するようにすることをおススメします。

用語集もメンテナンスをしよう

翻訳メモリと同様、用語集の定期的な整備と編集はとても重要です。

アジャイルUI翻訳では翻訳と同時に新しい用語が追加されることも多く、定期的に用語の翻訳・確認・用語集への登録をします。
一度訳出した用語を他の翻訳者が再度翻訳し、結果として機能名などの用語が揺れてしまわないよう、新出の用語は定期的に追加し、用語集そのものをメンテナンスすることが重要です。

一旦訳語が確定してしまえば、大量に処理できるのがUI翻訳のいいところでもあります。長期にわたる案件では、翻訳メモリ用語集を見直すフェーズを定期的に設けるのが良い訳文作成への助けになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。UI翻訳では特に、翻訳メモリと用語集を活用することにより、高い品質の維持納期削減コストカットの3つを実現できることがお分かりいただけたと思います。

ただし、翻訳メモリと用語集を漫然と使いっぱなしにするのではなく、定期的なメンテナンスを行い、翻訳時には細かい点に注意することが重要となってきます。

今後UI翻訳を検討されている方は、ぜひ、翻訳会社の担当者にご相談してみてください。


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