スタイルガイドとは

~希望の翻訳に仕上げるために~

翻訳の品質を維持するために重要なポイントは何でしょうか?

翻訳者の技量、参考資料の有無、メモリや用語集の充実度など、様々な要素が挙げられますが、「スタイルガイド」も高品質な翻訳を維持するためには欠かせない重要な要素です

前回の記事では、スタイルガイドの概要について例を挙げてお話ししました。今回の記事では、翻訳において「スタイルガイド」が品質維持のためにどのような役割を果たしているのかについてご紹介します。

スタイルガイドとは

スタイルガイド」とは、文章上の表現や表記に関するルールをまとめた文書のことです。

翻訳会社では、スタイルガイドを参照しながら翻訳を進めることで、訳文のばらつきをなくし、統一感のある文章に仕上げています。特に、複数の翻訳者さんが関わる大規模な案件においては、スタイルガイドは不可欠です。複数の表現が考えられる項目について、事前にルールを定めることで作業者間の不統一を防ぎ、文章の品質を維持します。

また、統一性や品質という側面以外に、希望どおりの訳文を作成するためにもスタイルガイドは役立ちます。文章のスタイルは文章の印象に影響するため、「柔らかい文章に仕上げたい」「簡潔にしたい」など、どのような表情の文章にしたいかというイメージがある場合は、そのイメージに沿ったルールを定義することで、希望を実現することができます。

スタイルガイドは、お客様から翻訳資料としてご提供いただく場合もあれば、Microsoft社のスタイルに合わせるといった指定を受けることもあります。特に指定がない場合には、文書の内容や関連資料などを確認の上、翻訳会社側でスタイルガイドを作成・選定して使用します。

スタイルガイドの項目例

それでは、具体的に、スタイルガイドには何が定められているのでしょうか。ここでは、スタイルガイドに記載される項目の例をいくつかご紹介します。(スタイルガイドの内容は扱う言語によって異なります。ここで取り上げるのは英語を日本語に翻訳する場合の例です。)

① 文体

文体」とは、大まかに言えば、「です・ます」(敬体)と「だ・である」(常体)のことです。文体によって、文章の質感が変わります。敬体には柔らかい印象があるため、ユーザーマニュアルやWebサイトの文章で好まれます。常体は簡潔に表現できるため、プレゼンテーションのスライドなどで使用されることが多いです。どちらが正しいということはなく、文書の中で統一するという点が重要です。(読み物記事などでは、文章にリズムを出すために、あえて敬体と常体を混ぜる表現手法もあります。)

また、文章全体のルール以外に、「箇条書きは常体とする」などの細かなルールを定めることもあります。さらに、見出しなどは体言止め(文末を名詞句にする)にするように指示する場合もあります。

そんなことまでルールにしなくても、と思われるかもしれませんが、文体を後から修正しようとすると相当な手間がかかるため、あらかじめ定めることでリスクを回避できます。また、翻訳会社にとっては、翻訳開始後に翻訳者さんから受ける質問を減らすことにもつながります。何より、文体を定めることで、最終的な文章の印象をある程度まで制御することができます。

 

② 文字

文章中で使用できる文字もスタイルガイドで定義します。ここでいう「文字」とは、ひらがな・カタカナ・漢字・アルファベット・数字などを指します。「ひらがなの使用を禁止する」ということはまずありえませんが、読みやすい文章にするために「一部の漢字の使用を禁止する」ことはあります。内閣告示の定める「常用漢字表」の漢字のみを使用するという方針が標準的ですが、分野や業界によっては常用漢字以外の漢字を日常的に使用することもあり、確認が必要です。

アルファベットと数字は半角と全角の両方で表記できるため、どちらを使用するかを定めます。半角と全角では、見た目の印象が変わるため、統一が必要です。

半角を使用した例:ENTERキーを2回押します。

全角を使用した例:ENTERキーを2回押します。

カタカナも半角で表記できますが、一般的には全角を使用します。ただし、ユーザーインタフェースなどでテキストの表示領域に制限があり、訳文を短くするために半角カタカナを許容することもあります。

③ 記号

記号」とは、たとえば、以下のようなものです。

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括弧類をはじめ、句読点や感嘆符、疑問符、ハイフン、コロンなど、さまざまな記号があります。スタイルガイドでは、どの記号をどのように使用できるのかを定めます。たとえば、英文に引用符が使用されている場合に、訳文では引用符をそのまま使用するのか括弧に変えるのかということや、感嘆符や疑問符を訳文中でも使用してよいのか、それとも特定の文脈でのみ許容するのかということを定めていきます。また、記号の多くも全角と半角で表記できるため、どの記号をどちらで表記するのかも指定します。

英語が訳文中にも多く出てくるような文書(IT製品のマニュアルやプログラミングに関する文書など)では英語由来の記号(引用符、コロンなど)をそのまま使用しても不自然ではないですが、一般的な文書でこうした記号が使用されていると違和感を覚える読者も多いため、注意が必要です。

まとめ

ここまで、3つの項目を見てきました。このほかにもスタイルガイドには多くの項目があります。文書の内容や分量によっては、細かくスタイルを定めないこともありますが、翻訳する文章の量が多くなればなるほど、スタイルガイドの重要性は高まります。お客様に最終的な翻訳文のイメージがある場合にも、スタイルガイドは不可欠です。

翻訳会社では、お客様の希望に沿った翻訳文を納品できるよう注力しています。もし翻訳会社に依頼される際、既存のスタイルガイドがなくても、関連資料や旧版などがあれば、それに合ったスタイルの訳文に仕上げることができるかもしれません。また、ご紹介したような項目について、ご要望があればぜひ提示してみてください。

なお、日本翻訳連盟(JTF)の翻訳品質委員会が、『JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)』を無償で提供しています。スタイルガイドがどんなものであるのか見本を見てみたい方、あるいは自社でスタイルガイドを導入したい方など、気になる方はぜひ一度ご覧になってみてください。

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