用語の登録~変更~廃止までを
効率よく管理するためのノウハウ
まず①は、新製品やサービスを開発する担当者やマーケティング担当者などは、新しい機能や製品名に触れる機会が多いため、用語として登録するチャンスを一番有しています。商材が多岐にわたるような大企業の場合は、各事業部の責任者や、用語登録の責任者を立ててもらうのは理にかなっています。一方で事業部のモチベーションや業務の多寡によっては用語登録が進んでいたり、遅れていたりするという差が顕在化するというデメリットがあります。こうしたケースを改善するには、各事業部の責任者の方々を統括する担当が必要になります。
用語管理を検討している部門はそれほど多岐にわたっておらず、責任者をアサインできないような事情がある場合には、発注しているドキュメント制作会社や翻訳会社に用語登録のトリガーを出してもらうことも検討できます。まず、メリットは翻訳作業をしている担当に用語登録したほうが良いと思われる単語をリストアップしてもらうため、実際の執筆や翻訳作業に役立つものをもれなくピックアップできます。当然、頻出する単語は対象になってくるため、用語集を適用した場合の効果も見込めます。一方で、そういったサービスを提供していないドキュメント制作会社/翻訳会社が多いことや、用語集管理を理解していない委託先では逆に混乱を招く可能性があることと、商材を取り扱っている責任者と比較すると、商材に対する知識が乏しいので、商品名や、技術名称については気が付かないというデメリットもあります。
そこで登場するのが③です。欧州(特にドイツ)のメーカー企業では、ターミノロジストと呼ばれる役職を置いているケースがあります。ドイツでは用語管理のイベントを実施した際に、500名以上の参加者があったこともあるようですから、ドイツの方々がそもそも用語管理に対して高い意識を持っているのかもしれません。では、ターミノロジストとはどんなことを担当しているのでしょうか。もちろん、詳細な業務レベルでは各社ごと役割が異なるものの、おおむね下記のような役割を担っているようです。
これ以外にも、多言語の用語定義が必要な場合は、各国のターミノロジストを管理するターミノロジーマネージャという役割を担うケースもあるようです。多言語プロジェクトの場合には、上記の1と2をターミノロジーマネージャが担当して、各国の用語定義や承認プロセスは、各国のターミノロジストに任せるといった具合です。
ここまで大規模になってくると問題になってくるのが、リソースです。用語は企業の重要な情報管理資産であるにも関わらず、なかなか効果がわかりにくい間接コストです。そこまでの人材を確保するには、企業の上位マネジメントクラスの理解を得る必要があるケースも出てきますが、一方で、用語管理だけで朝から晩まで業務が埋まってしまうというケースはなかなか考えにくいと言えます。
では、持続可能な用語集ライフサイクル管理のベストプラクティスを実現するにはどうすればよいでしょうか。ターミノロジストと呼ばれる役割を多く抱えることなどできず、兼任で担当するしかないケースでもうまくライフサイクルを回すためには、関係者を少しずつ巻き込むことです。
つまり、プロダクトオーナー(開発者/マーケティング担当など)と、執筆/翻訳担当がともに用語の定義/変更/廃止を定義することができるような管理方針をターミノロジストが策定し、ライフサイクルを円滑に運用する手助けをするといったイメージです。
上記の図では、用語集の登録依頼(登録トリガー)を各部門が担っています。ターミノロジストは定義作業の担当者を選定し、データベースの書式、管理(作業)方針、工数の見積などを実施し、定義作業の担当者に依頼をします。日本語については社内の担当者、韓国語や中国語については、外部の翻訳会社に依頼することに決定したようです。定義作業が完了すると次に承認プロセスを経ます。この図の場合は、作業を依頼した担当以外の誰かに、内容の確認を行ってもらう形をとっています。最終的にはターミノロジストが承認をすると、公開されます。公開後は、運用方針(特別連載第五回を参照)に関する文書が必要になります。
いかがでしょうか。こうすることでターミノロジストの負担も軽減できます。ただし、上記のフローを円滑に回すためには、やはりターミノロジストによるプロセス管理が必須となります。また、重要なポイントとして、「ステータス管理」と「Webベースのデータベース」が必須となります。ステータス管理とは、「定義依頼中」、「定義中」、「承認中」、「承認済み」といったステータス属性を付与する必要がある、ということです。この特別連載第四回でも紹介しましたが、執筆や翻訳作業をしている担当者にとって、ステータス情報がとても重要であることは言うまでもありませんが、リクエスターである部門担当や、ターミノロジスト、その他の関係者にとってもステータスの情報は有益です。
次にWebベースのターミノロジーデータベースです。特別連載第三回で紹介したような、Webベースのコラボレーションプラットフォームが必須となります。企業内外の関係者がスムーズに、かつリアルタイムに情報共有をするためには、こうしたプラットフォームが欠かせません。原則として、小規模の運用の場合は不要ですが、小規模な構成でも社内外の関係者がコラボレーションするためには、QtermやTermLodeといった管理ツールと、Q&Aのやり取りのルールが必要です。
上記のような定義依頼(登録トリガー)から公開までのフローが一旦回ったら、変更や廃止のサイクルは非常にシンプルです。変更な必要な用語が出てきた場合は、各部門の担当、あるいはターミノロジストから変更依頼をトリガーします。変更作業(別の定義を付与)をする担当に依頼が回れば、それ以降の定義→承認→公開のフローは同様です。あえて付け加えるとすれば、変更した場合のタイムスタンプや変更者を明記(特別連載第四回を参照)したり、版の管理をしたりなどの管理方針はターミノロジスト側で策定する必要があります。
翻訳者側で発見した矛盾や、未知語(用語集としては登録されていないが、用語登録をしたほうがよさそうな単語)などについても、管理の方針(役割/担当/フロー)を策定してあげることで、ライフサイクルに含めることが可能です。
いかがでしょうか。今回の内容をまとめてみます。