日本語を英語に翻訳する際、自然な英文にしたい!でもどこかしっくりこない。なんとなく不自然な英語になってしまう。そんな経験はありませんか?
日本語と英語では、もちろん文法が異なりますし、日本語にはあって英語にはない単語・概念や、英語にはあっても日本語にはないものが存在します。これらの違いを把握せずに訳出すると、言いたいことが伝わらなかったり不自然な英文なってしまったりすることも。
前回ご紹介した「和文英訳で気を付けるべきこと」シリーズ、今回は「ワードチョイス」に焦点をあててご紹介します。
日本語でもそうですが、英語でも「ワードチョイス」は重要です。訳語の選択を誤れば、原文が伝えようとしている情報を捻じ曲げて読み手に伝えてしまうかもしれません。
特に、「日本語では区別されていない概念」が英語では区別されている場合、慎重な訳語選びが必要になります。
次の原文があるとします。
「私は花子さんと太郎さんが付き合っていると疑っている」 |
ここの「疑う」を訳出したいとき。辞書をひくと「doubt」「suspect」などの単語が候補が上がりますが、ここでそれぞれの単語が持つ意味をしっかりと確認せず、安易に訳語を採択してしまうと、文意が大きく変わってしまいます。
それでは、「doubt」「suspect」を実際に使った訳文を見て確認してみましょう。
I doubt that Hanako and Taro is seeing each other.
I suspect that Hanako and Taro is seeing each other.
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それぞれ「疑う」の訳語ですが、意味の異なる文になっているのがお分かりでしょうか。
「doubt」は「(~が正しくない、違うと)疑う」という意味を持ちます。つまり、今持ってい情報や結論が正しくないであろうと疑っているのです。
「ダウト」というカードゲームを思い浮かべてみると分かりやすいと思います。「ダウト」はそのまま「doubt」が転じてゲーム名になっています。
ゲームでは、プレーヤーが虚偽のカードをこっそりと出したであろうときに「ダウト!」とコールします。つまり、プレーヤーが出したカードが「正しくない、違う、と疑っている」のです。(詳しいゲームのルールはWikipediaをご覧ください)
それでは、先ほどの例文に戻ってみましょう。「doubt」の持つ意味を踏まえると、以下の訳文はこのような意味になることがお分かりいただけると思います。
これでは、元の原文と全く正反対の意味になってしまいますね。その一方で、「suspect」は「~(そう)でないかと疑う」という意味を持ちます。「suspect」は名詞になると「容疑者」という意味になりますが、「容疑者」は「ある罪を犯したと疑われている人物」という意味になりますので、動詞の「suspect」の意味のイメージもつきやすいのではないでしょうか。
これを踏まえると、先ほどの例文(「付き合っているのではないかと疑っている」)では、「doubt」ではなく「suspect」を使うことが適切であると分かります。
今回の違いは、日本語の「疑う」という語に「①得られた結果・結論が正しくないのではないかと思う」という意味と「②その人が悪いことをしたのではないかと思う」という二つの意味が含まれていることによって発生します。(weblio)①の意味で使われている場合「doubt」が訳語として採択されるべきであり、②の意味だと「suspect」になります。
「疑う」を訳出するときは、どちらの意味で使われているかによって、充てる訳語も変わってきますので、ワードチョイスには注意が必要です。
もう一つ、例を挙げてみます。
「確認する」の訳語として、どの単語が一番最初に思い浮かびますか?多くの人が「confirm」を挙げるのではないでしょうか。
たしかに「confirm」には「確認する」という意味がありますが、厳密には「(~が正しいということを)確認する」という意味になります。
たとえば、以下のような文で使われます。
Confirmはより限定的な「確認する」を意味するため「確認する」を単純に「confirm」と訳出すると、不自然になってしまうことがあります。
たとえば、以下のような原文です。
ここでの「確認」はconfirmの持つ限定的な「確認」ではなく、「チェックする」に近いニュアンスです。
そのため「confirm」はこのコンテキストでは適切でなく、一般的に以下のように訳出されます。
このように、訳語の採択では、原文の単語が持つ意味と原文が言わんとしていることを正確に把握することが重要です。その上で、候補となる訳語の持つ意味をしっかりと確認し、コンテキストに合ったふさわしい訳語を採択することが、和文英訳で気を付けるべきポイントと言えるでしょう。