日英翻訳の品質を高める3つの指示
日英翻訳の品質を高める3つの指示
日本人のお客様にとって、英語から日本語に翻訳する、英日翻訳は品質が良いかどうかを見るのは比較的簡単だと言えます。お客様自身が成果物を見た時に、日本語での良し悪しがわかるからです。
しかし日英翻訳になると、成果物の品質が本当に高いかを図るのは英語のネイティブスピーカーでない限り難しいかもしれません。そこで日英翻訳のプロジェクトマネージャー(以下PM)が、お客様の希望通りの成果物が得られるポイント、そしてその工程をお伝えしたいと思います。
まず翻訳の品質にかかわる重要な要件として、既存の翻訳と統一が取れているか、という点が挙げられます。
商品名やシステム名など、すでに固有の英訳が確定しており、依頼する案件も既存訳に準拠してほしい場合は①「用語集」(日本語と英語の対訳になっている表)形式で翻訳会社に支給いただくか、②既存訳の載った文章を参考資料として提出いただくとより正確な翻訳を納品することができます。というのも、翻訳作業中に、翻訳者などの作業者は商品名やシステム名などに対して、既存訳が存在しないかを調べます。会社のホームページ等を確認しても既存訳が見当たらなかった場合は適宜新しく訳出をしますので、実は既存訳が存在した場合、齟齬が生じる可能性があります。もしも過去に翻訳されたものがあり、新しい翻訳を既存訳に合わせてほしい場合は、依頼の際に翻訳会社にお渡しください。
次に読み手の指定です。成果物に関してイギリス英語を指定されるお客様もいれば、ノンネイティブに向けて平易な英語にしてほしいというお客様もいます。例えば、米国の某企業のアルバイト向けマニュアルを翻訳する際、「米国には移民の方がたくさんいて、読者は必ずしも英語が母語ではないため、わかりやすく単純な表現をしてほしい」というリクエストもありました。翻訳者はそのリクエストに応えるための文体を選んで訳出しますので、ドキュメントの文体に関して希望する形式がある場合、依頼時にその旨を伝えるとよいでしょう。
最後に翻訳の品質に大きくかかわるものとして「訳調の指定」があります。訳調は「直訳調」「意訳調」に大きく分けられます。
①直訳調
「直訳調」は基本的に日本語を一言一句英語に置き換えていくものです。直訳調のメリットとしては日本語と英語の間で情報の齟齬が発生しないという点です。情報を過不足なく正確に伝えることを目的としている文章、例えば試験問題、機械の取扱説明書などが直訳調に向いていると言えます。
【例】 この取扱説明書は本機を安全に効率よくご使用いただくために、正しい扱い方について説明しています。 This Operation Manual describes the correct method of handling this machine to ensure its safe and efficient use. |
上記の例は機械の取扱説明書です。世界中に多言語展開をする日系メーカーでは、こういった文書が日本語から英語に翻訳されたあと、英語から多言語(フランス語やドイツ語等)に翻訳されるケースも多々あります。そういった際に、どの言語でも日本語の原文から離れることのない文章にするために、原文に即した直訳調の英訳をするというのが基本です。
②意訳調
それに対して「意訳調」は意味を優先して翻訳します。例えば、日本語を一言一句英語に翻訳してしまうと英語として不自然になってしまう時に(ことわざなど)、完全に同じではないが似たような意味を表す英語に翻訳していきます。
読み手に文章の意図をしっかりと伝えたい場合、特にマーケティング用の文章に向いているといえます。
【例】 ものづくりからはじまるまちづくり Urban development with fabrication |
上記の例はある企業のパンフレットのキャッチフレーズにあたる一文です。「はじまる」に当たる英語が翻訳されていませんが、動詞を省くことで、日本語のひらがなで表されている意図を表現しています。
訳調は基本的に全体を通して統一されますが、例えば担当者のコメントの部分だけは読み手に伝わるように意訳調にしてくださいといった指定も可能です。翻訳を依頼される際に用途によって訳調の指定をいただくことは、思ったとおりの翻訳を得ることのできる大きなポイントになるといえます。
さて、上記の指示をお客様からいただいたあと、翻訳会社内ではその指示はどのように伝わっていくのでしょうか?これまで翻訳にフォーカスしたポイントをお伝えしてきましたが、今度はプロジェクト全体の目線で解説します。日英翻訳案件では、翻訳だけではなく下記の工程を通じて成果物ができあがります。
「翻訳」ではネイティブの翻訳者が日本語から英語へ翻訳を行い、「バイリンガルチェック」では翻訳された文章が原文と比べて齟齬がないかを日英バイリンガルのチェッカーが行います(モノリンガルチェック・DTPはオプションです)。
そしてこのプロジェクト全体を回す役割がPMです。PMは品質管理担当者と相談して、対象の文章をどの翻訳者またはチェッカーにアサインするのが最適かを考え、作業を割り当てます。
翻訳者/チェッカーにも得意な分野、苦手な分野があり、時には意訳調の翻訳が苦手な翻訳者もいます。訳調と分野が翻訳の品質そして作業者の適正は納品物の品質に大きく関わりますので、高い品質の成果物を納品するためにふさわしい人材に依頼していきます。
そして、お客様からの指示を個々の作業者に伝え、より良い品質の翻訳を目指します。例えば、お客様は「意訳調」の翻訳を求めていて、翻訳者も「意訳調」に翻訳したとしても、チェッカーがその意図を伝えられていない場合、より「直訳調」に訂正を入れてしまうこともあります。このように翻訳自体が複数の人によって作られており、多くの人が介在することによってお客様の希望がもれてしまう可能性もありますので、PMが積極的に働きかけ、お客様の指示を作業者それぞれに的確に伝えます。よい品質の成果物を得るためにはPMの働きが欠かせないということが言えます。
このように、翻訳会社ではお客様の指示を「仕様」として捉え、各作業者に準拠を徹底するよう伝えます。依頼する翻訳をどんなシーンで使うか、どんな人に読んでもらいたいか、どんなことを伝えたいか。これらを具体的にイメージしながら、3つの指示を翻訳会社に伝えていただければ、想像していたシーンにぴったりの、高品質な訳文が納品されるはずです。