CAT虎の巻:memoQ入門編

翻訳業界では、翻訳作業の際にCATツールを使用するのが一般的です。CATとは、コンピューター支援翻訳(Computer Assisted Translation)で、文字通りコンピューターに支援された翻訳を指します。世界中の翻訳者が使用するソフトウェアで、CATツールの登場により、翻訳作業は格段にスピードアップし生産性は飛躍的に向上しました。

(CATツール全般の概要については、こちらの記事をご一読ください)

 

CATツールについてはこれまでの記事で何度か取り上げてきましたが、今回の記事では、数あるCATツールの中でも現在シェアを大きく伸ばしつつあるmemoQについてご紹介します。

なぜmemoQは、CATの大御所SDL Tradosと比肩するほどのツールとなったのでしょうか?その謎に迫ります。

memoQとは?

 (memoQ公式ホームページより)

memoQとは、ハンガリー拠点のKilgray Translation Technologies(現在はmemoQ Translation Technologies)により開発されたCATツールです。2006年に初版がリリースされ、その後数多くのアップデートを重ね、2018年11月現在ではバージョン8.6が最新版となっています。

CATツールは大きくクラウドベースとローカルベースの2種類に分けられますが、memoQはクラウドベースを採用するツールの草分け的な存在となっています。

ローカルベースとクラウドベース、それぞれのタイプで得られるメリットはこちらの記事で紹介していますが、今回はmemoQを使うことによって得られるメリットに注目していきます。

ロゴから見えるmemoQの強み

memoQ特有の強みは何でしょうか?

memoQのロゴに込められた意味を見てみると、少し分かりやすくなります。

 

  

 (memoQ公式ホームページより)

Translation(翻訳)、Cooperation(協調)、The Qとあります。

Translationの記号は、円を描いて一連の流れがつながっているように見えます。memoQの強みの一つに、翻訳のプロセスがmemoQ上で自動的に、シームレスに流れる、ということがあります。Translationの記号は、この強みをシンボリックに表しているといえます。

Cooperationの記号では、円の各点が繋がり合っています。memoQのもう一つの強みに、クラウドを活かして各作業者とプロジェクト担当者がリアルタイムに連携でき、各作業者から提供された用語や翻訳メモリをインタラクティブに共有することができることがあります。

Qは、「Question」を彷彿させるアルファベットです。memoQには、翻訳の品質を保証するためのQA機能が充実しています。このQA機能もmemoQの強みの一つと言えるでしょう。

 

他にもmemoQには多くの機能が備わっていますが、まずはこの3つ中心にmemoQの機能を詳しく見ていきます。

Translation:シームレスな翻訳管理 - クラウドベースで効率化実現!

memoQの最大の特徴といえるのが、クラウドを活用した「オンラインプロジェクトです。クラウド上にプロジェクトが作られ、複数の翻訳者が同時にプロジェクトにアクセスし、翻訳を進めることが可能です。

「オンラインプロジェクト」を可能にするクラウドベースのmemoQを使うと、作業者とファイルの受け渡しを行う側(管理側、主に翻訳会社)に大きなメリットがあります。

通常のプロジェクトでは、管理側が翻訳者にファイルを渡し、翻訳が終わったらファイルを受け取り、その翻訳をレビューする場合は管理側がまたレビュワーにファイルを渡し、レビューが終わったらファイルを受け取る・・・という管理側を経由したやりとりが確実に発生します。

しかし、memoQの「オンラインプロジェクト」の場合、そのやりとりは一切不要になります。オンライン上で作業者を事前に登録しておけば、翻訳作業が終わったら自動でレビュワーに連絡が送られ、レビュワーが作業を開始できるようになるので、面倒なファイルの作成や受け渡しはなくなり、シームレスな案件管理を実現できます。

さらに、オンラインでリアルタイムに作業状況が共有されるので、管理者は翻訳者に割り当てたファイルの作業がどれくらい進んでいるか、作業者に都度問い合わせなくてもその進捗状況をリアルタイムで確認することができます。

また、クラウド上にアップロードされた作業ファイルに対して複数の作業者がアクセスし、翻訳作業を同時に進めることができることは、翻訳納期の短縮にもつながります。

Cooperation:リアルタイムで情報共有 -翻訳品質も向上!

また、オンラインプロジェクトを採用することにより、プロジェクトに設定された翻訳メモリや用語集がリアルタイムで更新され、最新のエントリーを即座に作業者全員に共有できます。

お客様から用語の指定があった場合もすぐに共有でき、作業者が新規の訳出をリアルタイムにメモリに登録していくので、表現の揺れを少なくすることもできます。

さらに、memoQには便利なコミュニケーション機能が備わっており、作業者同士や管理側と簡単にコミュニケーションをとることができます。

翻訳作業中に内容やスタイルなどについて、作業者から質問が挙がることは多々あります。従来はメールでやり取りをしたり、他のプラットフォームで質問の管理をしたりしていることが多くありました。

しかし、memoQを使用すると、CATツール上でクエリを受け付け、回答し、そしてその内容を他の作業者と共有するところまで完結させることができます。

翻訳、翻訳管理、そしてクエリの管理をすべて一つのプラットフォームにまとめることができるので、作業する側そして管理する側にとっても業務の効率化につながります。

これらの「オンラインプロジェクト」を採用することによって生まれる利点は、クラウドベースのmemoQであるからこそ実現できるものであり、ローカルベースを採用するTradosでは得られないメリットです。

The Q:QAツール

memoQには強力なQAツールが備わっています。数字や用語の使用、書式、その他の間違いを自動で指摘します。セグメント単位の訳ゆれも自動で検出し、簡単に統一できるので、特に大型プロジェクトでその力を発揮します。

デフォルトで備わっているQAツールを活用できるのはもちろん、案件に合わせたチェックリストをカスタマイズし、その項目に合わせてエラーを自動検出することも可能です。

これにより、どうしても人の目による見落としが発生し、エラーが残ってしまうリスクを最小限に抑えることが可能です。

memoQのQAツールに関しては、別の記事にて特集予定です。乞うご期待ください!

その他の魅力:リーズナブルな価格

その他にも、memoQは他のCATツールでは得難い強みを持っています。

TradosはCATツールの中で、先駆的に開発し続け、歴史も長く、現在も翻訳業界で最も一般的なCATツールと言えます。翻訳会社から企業の翻訳部署や個人の翻訳者まで、その普及率は非常に高いものですが、価格がかなり高額なため、初期投資に費用がかかるのがネックです。

一方memoQは、まだまだ新しいツールではあるものの、Tradosと比較して安価な価格を実現しています。

さらにmemoQは、翻訳を管理する側(翻訳会社)でライセンスを購入してしまえば、作業をする側はアプリケーションを無料でダウンロードするだけで、翻訳管理者から付与されたライセンスを使って翻訳を開始することができます。

その他の魅力:ルックアンドフィール

また、memoQはエディタ画面の分かりやすさにも定評があります。

エディタ画面は翻訳する際に一番目にする画面です。memoQのエディタ画面では、原文と訳文が対訳形式で並び、TM(翻訳メモリ)や用語ベースなど、翻訳を支援するウィンドウをお好みで表示することができます。一般的なCATツールを使用した経験のある方であれば、非常になじみやすいと思います。

memoQ公式HPより)

まとめ

memoQとSDL Tradosを比較すると、「クラウドベース」を採用することによって得られるメリットが、memoQならではの強みであることがお分かりいただけたかと思います。

しかし、すでに他の記事で紹介しているとおり、クラウドベースのアプリケーションは、ネットワークの状況に左右されたり、動作が重くなってしまったりと、そのメリットならではのデメリットも生んでしまいます。

しかし、memoQは、いままでのCATツールにはない特徴を多く備えており、特に複数の作業者を必要とする大規模なプロジェクトでその力を発揮します。プロジェクトの条件やお客様のご希望に合わせて、選択肢のひとつに含めてはいかがでしょうか。

 

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