翻訳の品質は個人の価値観によって影響を受けます。品質の評価の際、主観的な部分を完全に排除することは難しいのですが、お客様と翻訳会社の間で品質に関する認識が統一されていないと、翻訳会社はお客様の満足のいく成果物を提供できない可能性があります。
そのため、お客様の要求を満たす翻訳を提供するには、お客様と翻訳会社の間で品質について共通の認識を持つことが欠かせません。しかし、上記のとおり、品質は評価者の価値観に左右されるため、共通認識を持つことは簡単ではありません。このような課題を解決し、お客様の希望どおりの品質の翻訳を実現するには、日本翻訳連盟(JTF)が作成した「JTF翻訳品質評価ガイドライン」が役立ちます。本記事では、この「JTF翻訳品質評価ガイドライン」についてご紹介します。
「JTF翻訳品質評価ガイドライン」とは、翻訳の品質評価をする際のガイドラインです。上記のような課題があるという現状を踏まえ、関係者間で共通の認識を持ち、ビジネスを円滑化することを目的として作成されました。ガイドラインはどなたでも入手可能で、日本翻訳連盟のウェブサイトからダウンロードすることができます。
品質に関する共通認識を持つ前提として、このガイドラインではまず、翻訳品質評価に関する用語が定義されています。
翻訳成果物が、関係者間で事前に合意した仕様を満たす程度のこと。
翻訳成果物が仕様をどの程度満たしているか測定すること。
クライアントや最終読者のニーズや目的などに基づき、翻訳成果物が持つべき要件をまとめたもの。文書化すると「仕様書」となる。
この定義からわかるとおり、「品質」を「評価」するには「仕様」が重要となります。仕様に盛り込む項目としては、以下のようなものが挙げられています。
翻訳会社との上手な付き合い方 Vol 4 ~見積り依頼~ではこのような情報がお客様の要望を満たす翻訳を実現するのに必要不可欠であると記載しましたが、これが品質の評価の前提である仕様となります。
評価のベースとなるのは、エラーベースの評価メトリクスです。これは欧米の翻訳業界でも広く用いられている手法で、翻訳成果物に含まれるエラーをカテゴリーに分け、重大度に応じて点数をつけ合否を判定するものです。これは、エラーカテゴリーと重大度を明示することで、事前に関係者間で品質に関する共通認識を持つことができるというメリットがあります。また、評価指標に基づいて定量的に評価する手法のため、客観的な評価が可能です。翻訳品質評価ガイドライン(日本翻訳連盟)からダウンロードできる「評価シートサンプル」をご覧になるとイメージしやすいと思います。
しかし、この評価方法は完全なものではありません。誤訳や訳抜け、スタイルガイド違反などはエラーカテゴリーとなっており、このような点については評価が可能ですが、翻訳の品質には客観評価では測れない面もあります。たとえば、マーケティング文書では読者の購買意欲を喚起するような日本語で翻訳する必要がありますが、このような案件を仮にマニュアルのような文体で翻訳したとすると、誤訳などがなく内容が正確であったとしても、発注者のニーズを満たすものにはなっていません。にもかかわらず、客観評価の場合、エラーカテゴリーの設定によってはこのような点を評価できない恐れがあります。そのため、状況に応じて主観評価も併用することを検討する必要があります。また、主観評価の結果を客観的なメトリクスに変換することで、その後はメトリクスで評価するということも、品質改善のために重要です。
評価メトリクスは以下の要素で構成されます。
このメトリクスは翻訳対象の文書の性質によって変更が可能です。たとえば、技術文書であれば、「正確さ」を「とても重視」、「流暢さ」を「あまり重視しない」に設定し、広告の場合は「流暢さ」を「とても重視」、「正確さ」を「あまり重視しない」に設定するなど、分野や文書のタイプによって適切な評価ができるように設定することができます。
その他の利用方法の詳細については翻訳品質評価ガイドライン(日本翻訳連盟)からガイドラインをご覧ください。
冒頭でも述べたとおり、翻訳品質は評価者の主観に左右される面が少なくありません。しかし、この「JTF翻訳品質評価ガイドライン」は、関係者が翻訳品質に関する共通認識を持ち、適切に評価するのに大変役に立ちます。翻訳会社に翻訳を依頼する際は、このガイドラインを活用することを検討してみてはいかがでしょうか。