英語を学んでいると、古典文学や詩、聖書などに触れた際に「thou」や「thy」といった現代英語ではほとんど見かけない単語に出会うことがあります。
このような英単語を用いた文章に触れて「ちょっと難しいな」と感じた方もいるかもしれません。実は、これらの言葉はすべて古い英語表現の一部。現代英語ではほとんど使われなくなった表現ですが、現代英語とは異なる響きやニュアンスを持ち、歴史や文化を色濃く反映しています。
この記事では、「thou」や「thy」などの代表的な古語の意味や使い方、現代英語との違い、そして翻訳の現場での注意点について解説します。英語の古語の代名詞を中心に、その歴史や変遷についてわかりやすくご紹介します。
英語の古典でよく目にする古語が「thou」「thy」「thee」「thine」といった二人称代名詞です。中世から近代初期の英語で使われていたこれらの古語は現代英語の「you」「your」「yours」に相当し、親しさや上下関係、人数によって使い分けられていました。例えば、「thou」は日本語での「お前」に近いニュアンスで使用されていました。
| 古語 | 格の種類 | 対応する現代英語 | 例文 |
| thou | 主格 | you | Thou art* my friend. |
| thee | 目的格 | you | I give thee this gift. |
| thy | 所有格 | your | Is this thy sword? |
| thine | 所有代名詞 | yours | The victory is thine. |
| ye | 二人称複数主格 | you | Ye shall not pass. |
*「art」は「are」の古語
一方で、「they」という三人称複数の代名詞も興味深い歴史を持っています。
もともと古英語 (Old English) では、「they」に相当する言葉は「hie (ヒー)」と言っていました。ところが、9世紀〜11世紀ごろ、イングランドにはバイキング(ノルマン人)たちがやってきて、古ノルド語(Old Norse)の影響が英語に強く及びました。
古ノルド語の「彼ら」は「þeir」(they)で、これが英語に取り入れられて、現在の「they」が定着していったのです。
つまり、今私たちが使っている「they」は、もともと英語ではなかったのです!外来語だったとは、ちょっと驚きですよね。
もともと「thou」や「thee」は、親しい間柄や目下の相手に使われ、「ye」や「you」は複数の相手や目上の人に使われていました。しかし、時代が進むにつれて、より丁寧で無難な「you」が一般化し、親しさや上下関係を示す「thou」は次第に使われなくなりました。17世紀ごろには日常会話での使用はほとんどなくなり、宗教文書や詩、地域方言の中にのみ残るようになりました。
15世紀以降、「you」が徐々に単数にも使われるようになります。その背景には、社会の変化や礼儀作法の発展が関係していました。かつてのヨーロッパでは、相手を敬う「敬語」の文化が強くなり、「you」が丁寧な表現としてどんどん一般化されました。
この影響もあり、「thou」は次第に「粗野」や「古めかしい」といった印象を持たれるようになり、最終的には日常会話から消えていったのです。17世紀ごろには、宗教文書や詩、地域方言の中にのみ残るようになりました。
古語は完全に姿を消したわけではなく、現代でも「thou」や「thee」といった表現は詩や音楽、宗教儀式の中で生き続けています。たとえば賛美歌やクラシック詩の中では、神や自然と語り合う際の特別な響きを持たせるために使われます。
また、シェイクスピアの舞台や映画では、登場人物同士の親しさや感情の起伏を示す表現として「thou」を使う場面が見られます。さらに、一部の方言や宗派では日常会話の中でいまも使われていることもあります。
聖書や古典文学:King James Version(欽定訳聖書)など
演劇や詩:シェイクスピア劇や詩で原文の言葉がそのまま使われるため
ファンタジー作品:中世風の世界観を出す演出として
宗教的儀式:一部の教会や古い祈りの言葉で
たとえば、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の有名なセリフもこうです。
| 「Wherefore art thou Romeo?」(どうしてあなたはロミオなの?) |
現代英語に直すと「Why are you Romeo?」ですが、「thou」が入ることで一気に詩的で特別な響きになります。
現代の英語話者にとって、これらの古語は詩的、荘厳、あるいは宗教的な響きを持っています。そのため、詩や聖書の翻訳で「thou」をどう日本語に訳すかは悩ましい課題です。
例えば日本語で敬語や親称を使い分けることで、ある程度そのニュアンスを再現することは可能ですが、「あなた」と「お前」だけでは微妙なニュアンスが伝わりきらないこともあります。
また、ファンタジー作品の翻訳やゲームローカライズでも、古語調の英語をどこまで日本語で古風に訳すか、その匙加減が問われます。「そなた」「汝(なんじ)」などを使うと雰囲気は出ますが、読者にとっては読みにくくなるリスクもあります。
「thou」「thy」「thee」「thine」いった古語は、英語の歴史と文化を映し出す美しい表現です。現代英語で目にする機会は滅多にありませんが、その意味や役割、ニュアンスを理解することで、英語の詩や古典文学、宗教文書の世界がより鮮やかに感じられるようになります。
翻訳や英語学習の中でこれらの古語に出会った際は、ぜひその背景にある歴史や文化にも思いを馳せてみてください。
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